表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で釣りをしていたら魔王と釣り友達になった  作者: sillin
第二投目 魔王と勇者の釣り勝負
PR
9/26

9 釣具屋へ

「ここは天国かっ!?」


 近所の釣具屋、ビッグフィッシングに到着するや、エルは感嘆の叫びをあげた。

 魔王が天国に行っていいのかちょっと思ったけど、もうその手の疑問を口に出すのはやめておこう。


「ほぇ~~」


 ライカも目を丸くしながら、店内を眺めまわしている。

 ここはルアー釣り師御用達の店で、シーバス向けのルアーも豊富にそろっているところだ。おれもほとんどはこの店でそろえた。


「わたしは一週間この店で過ごすことができそうだぞ」


「あたしもあたしも!」


「いま2時だから、一時間以内にしてくれ。シーバスのルアーはこっち」


 ピカピカのリールから離れようとしないエルを引っ張って、ルアーコーナーへ連れてくる。

 シーバスと言う一魚種に向けたものでも、たくさんの種類のルアーが棚に並んでいて、どれを選んでいいものかパッと見では判断はつかないだろう。少なくともおれは初心者のころ、数がありすぎて途方にくれたものだ。

 リールに後ろ髪をひかれていたエルも、ルアーを見るなりまた目の色が変わった。


「ここは宝の山だ。どのルアーも素晴らしく出来がいい」


「これもう、釣れたも同然でしょ。なんでナガシンは釣れないの? 下手糞?」


「そうだよ、下手だよ! でもな、魚の方も出来のいいルアーを見慣れてるんだ」


「そんなことがあり得るのかな……」


 異世界では釣り人口に対して魚の数が多いとしか思えない。スレるって感覚がないのだきっと。マジでうらやましい。


「ルアーを見切る魚がいることは事実だ。でも地合いなんかで、食い気が立っている時は、それでもかかったりする。釣れにくくなってるけど釣れないわけじゃない……と思う」


「どのルアーがいいか、教えてもらってもいいか?」


「うーん。どうだろ、そのへん。気に入ったのをおれに見せてもらって、ダメそうなら教えるってのは?」


「そうだな、ルアーのチョイスも技量のうちと言うことで、ここから勝負はスタートと行くか」


「なにっ!? もう始まるの。負けないぞ!」


 勝負と聞いて、ライカが声を張り上げる。店の中だからちょっとはトーンを落としてほしい。

 真剣なまなざしで、2人はルアーコーナーを行ったり来たりし始めた。


「……ちょっと、ミスタ・ナガシン」


 マイケルが声をひそめて、値札を指さした。


「これ、ゼロがひとつ多くないですかー?」


「こんないいルアーが100円で買えるか。1000円だ、間違ってない」


「オウ、こっちのは1800円もしまーす。お魚一匹買えますねー」


「それを言うな……」


 ルアーは高い。高いけど、それだけの価値がある。

 エサを模した疑似餌で魚に口を使わせようと言うのだ。いかに本物らしく見えるか、本物らしく泳ぐか。ここに並んでいるルアーには、人類の試行錯誤が詰まっている。


 数十分が経過した。

 意外にも先に決めたのはライカだった。


「ナガシン、これにする」


 持ってきたのは、コウガと言うミノータイプのルアーだった。色は薄いブルーの、いわゆるイワシカラー。大きさも10センチの中型で、問題なかった。


「オッケーだ」


 指で丸を作って受け取る。

 表情に出さないように気を付けたけど、内心驚いていた。

 水深の浅い河川でよく使われるルアーだったからだ。

 つまりあの場所に向いている。おれのルアーケースにも一軍として常備されている逸品だ。


「うむむむむ……」 


 反対に悩み切っているのはエルだ。

 釣り雑誌に興味を持ったように、データから入る性格なのかもしれない。すぱっと決めたライカと違って、手には3つのルアーを持ったまま、決めきれずにいるようだった。


「そろそろ時間だ、エル。決めてくれ」


「ま、待て。もう少し……。この3つじゃダメか?」


「マイケルの財布が死ぬからダメ。その3つの中で絞ってくれ」


「ミス・エルのためなら、ワタシ、男になりますよー?」


「ライカのと合わせたら五千円越えるけど」


「……ひとつにするのでーす!」


 フェアじゃなくなるしな。

 エルは難しい顔をしながら、3つを棚の上に並べた。

 人差し指を突き出して、なにをするのかと思ったら、


「ど、れ、に、し、よ、う、か、な、」


 万国共通……いや、世界をまたいでも共通のチョイス法を行った。

 結局選んだのはシンクレンジと言う名前のバイブレーションタイプのルアー。飛距離が出るので海側に有利だ。これは基本的に投げて引いてくるだけの使い方で、ブルブルと震えながら泳ぐ。その振動が魚に取ってたまらない……らしい。

 マイケルが会計を済ませている間、エルがぼそりと言った言葉を聞き逃さなかった。


「この店ごとあっちに召喚できんかな……」


「やめてくれ、さすがに」


 エルの考えることは迷惑のスケールが違う。

 時間もそろそろ頃合いになってきた。

 魔王と勇者の戦いの火ぶたが切って落とされる時だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ