少女の怒り(その5)
金・土・日、と一年生の春にさつきちゃんと出会ってからの集大成のような出来事が、一気に起こった。なんとなくだけれども、小林先生の話を太一も脇坂さんも遠藤さんも耕太郎も聞ければよかったのに、と思う。あの話を僕の口から完璧に、誤解が無いように伝えることはとても無理だ。
月曜から僕は、剃った後頭部にガーゼを貼り、頭に固定用のネットを被って登校した。
みんなには、転んだ時にドアノブで後頭部を切った、と説明した。
まさか、岡崎にアルミパイプで殴られた、とも言えない。
けれども、あの後岡崎はどうしたのだろうか?ちゃんと家に帰ったのだろうか?
ひょっとして、翌日の新聞やニュースを恐る恐る見て、何の記事も載ってないことや、僕の両親からも何の連絡もないことを却って不気味に感じているのではないだろうか。そのままびくびくしたまま今も暮らしているのではないだろうか?
岡崎が自殺を図った、と聞いたのは3日後のことだった。小さく新聞の記事にも出た。‘高校二年生男子、ナイロン紐で首つり自殺未遂。一命を取り留める’とあった。
発見が早かったので、脳障害等の後遺症の心配もないとの記事だった。
でも、体や脳の後遺症が無かったとしても、これからの岡崎の人生は一体どうなってしまうんだろう。僕が岡崎を救うことなどできる訳もないけれども、なんだか涙が滲んでくる自分をとても不思議に感じる。人間はどうしてこうなんだろう?岡崎が可哀想という気持ちもあるけれども、人間の憐れさ、ちっぽけさにやたらと涙が出てしまう。
けれども、岡崎が生き残ったことが神様のご意向だとしたら。
天に召された久木田とは違い、もう少し生きて償いをしなさい、ということなのだろうか。
‘事件’から一週間ほど経った日の夜。僕は久しぶりに家のベランダに椅子を出し、夜空を見上げた。
中秋の名月はもう過ぎてしまったけれども、秋も深まっていく途中の澄んだ空気のその上空に、白く、輝きの美しさの故に銀色にも見えるような月がそこにあった。




