魔女の真実
煩いドタバタとした音と共に陛下!陛下!陛下!という声で目が覚めた。
ん?息苦しい…モゾモゾと動く事は出来るものの何かにがっしり固定されている。
フィオナが困惑していると、勢いよく扉が開かれた。
「陛下!フィオナ様来てませんか?」
血相をかいているイオンでもフィオナにとっては救世主だった。
「イ、イオン…助けて」
必死に手を伸ばす。こちらに気付いてくれたイオンはとてつもなく世界の終わりでも見たかのような表情で、例えるならムンクの叫びならぬ、イオンの叫びをしている。そして、明日は天変地異が起こるーと泣き叫んでいた。
「イオン、とりあえず私をここから出して…苦しい」
あぁそうですねに続く、イオンが発した言葉にフィオナは言葉を失った。
「陛下、手を離して下さい。フィオナ様が潰れてしまいますよ」
これは陛下か‼
寝ている女性を抱き枕にするんではありません‼と言いたい所だが、今の状況に驚きすぎて口をパクパクするしかなかった。
さて、この後私、どうしたと思います?
前代未聞。陛下の腕の拘束を解いてみぞおちを食らわしました。
イオンと同様に蹴りで、2mぐらいは飛んだかな…?
イオンは口をあんぐりと開いて呆然と立っていた。
フィオナは、あっ、つい。ごめんなさいね陛下。口元に手を添えてホホッとスカートの裾を摘まんで軽やかに詫びをした。
イオンがふるふると頭を振って、フィオナの両肩に手を置いた。
「フィ、フィオナ様、一体何してんですか?やるならちゃんと殺って下さい!」
イオンの問題発言にツッコミを入れたかったが、陛下の声に消された。
「おい!」
陛下もツッコミを入れた。まぁ、それもそーか。
「陛下も我が姫に何してくれちゃってんですか。」
イオンは冷静だ。
しかし、イオンの言葉に陛下は剣をイオンにシュッと放った。
「あっぶなー」
放たれた剣はイオンの頬に一筋の赤い線をいれた。
「すまんな、手がすべっった」
陛下は悪びれなく言う。
「どんな滑り方をしたんだよ!」
「そうですよ、陛下。子供に剣を放つなんてダメです。」
フィオナはイオンを胸に抱き寄せ陛下を睨んだ。
いくら、人間が嫌いな私でも子供を傷付けるのは見てられない。そんな思いだった。
イオンは私に抱き寄せられながら勝ち誇ったような顔をしている。
それにイラつく様子を見せる陛下にこれは、子供の喧嘩か!と呆れがした。
…ふと、ある事に気が付いた。私、陛下の名前知らないわ!
仮にも求婚されといて名前すら知らないなんて…
「陛下、不躾ですがお名前をお聞きしても?」
陛下もたしかに、名前を知らないことに気付いた。
「失礼。俺の名前はジーク・アルテナント。ジークと呼んでくれ」
「私はフィオナと言います。どうぞ、お見知りおきを」
「ところで、フィオナ、武術に興味はないか?」
陛下が何やらたくらんでいる気がしますが…
「はい。それなりに興味はあります。陛下、それが何か?」
陛下の顔が暗い。
「ジーク。」
「え?」
陛下が小声で言うので、聞き取れなかった。
「陛下ではなく、ジークだ。そう呼んでくれ。フィオナ」
陛下にまっすぐ見られ頷くしかなかった。
「は、はい…」
「フィオナ、武道場に行ってみないか?」
「いいですね、ジーク。手合わせ願います!」
「あ、あぁ」
私は久々に身体が動かせると思いワクワクした。
「フィオナ…本当に真剣を使ってするのか?」
「?あたりまえです」
フィオナは真剣を右手にフライドの力を借りてジークに光の早さで近づいた。
真剣を上から振りかざし軽く止められるが剣と剣が交じり合った音と共に、身体を宙に浮かせ魔女ならではの呪文で雷竜を操る。
「魔術ありかよ!」
ジークの非難の声が聞こえるがあたりまえです。と華麗に答えた。
それなら俺もと、なにやら呪文を唱え始めたジーク。
ほぅ、魔術で魔女に対抗しますか。
ジークの呪文が唱え終わり、出て来たのは、瑞龍…なるほど、頭も使えるか。
ならば、と私は雷竜を残しまた別の呪文を唱え始めた。呪文から出てきたのは風龍
二体の龍相手に対抗出来るはずもなく、私は勝った。
ハーハー、ジークは結構魔力を消耗したらしく地面に寝転がっていた。
「フィオナ、お前は一体何者なんだ・・・」
ジークは、己が負けるなんて絶対に思ってもみなかったのだ。ジークからの問いにフィオナは艶やかな笑みを見せた。
「……貴方は…、魔女と言う存在を知っていますか?」
艶やかな笑みの瞳は深く、試されているようだった。フィオナの銀髪が揺れ動いている。…ここで知らないなんて言えたらどんなに楽か、
魔女の存在は知っているに決まっている。
直接、手を降したわけではないが、それは己が消し去った存在なのだから______
「ま、さか・・・」
薄々さっきの手合わせで感じていた。フィオナは魔女なのではないかと・・・
「そのまさか、ですよ」
フィオナは、フッと苦い笑みをする。けして、声を荒げたりはしていないのに、ドクンドクンと脈打つ心臓が煩い。
ジークは、フィオナの漆黒の瞳から抜け出せないでいた。当のフィオナはもうバレちゃったなぁと苦笑いを浮かべている。
ジークが疑問に思っているであろう言葉を私は言ってあげた。
「なんで、生き残っているのか?」
フィオナの笑みにジークは震えが止まらないでいた。
「妖精達が私を隠してくれていたんです。あの、泉で、でもあの泉で私の身内を殺した貴方に見つかるとは思いませんでした。何故貴方ほどの人間でも私1人倒せないのに魔女が死んで行ったのか分かりますか?」
最後に、ゆっくりと首を捻る行動の際に数本の銀髪が流れ落ちる。その場で佇んでいるフィオナの笑みはもはや恐怖でしかなかった。フィオナの瞳は何も映していなかったのだから…。
「…貴方方人間が汚した森や湖、海や空を浄化するために全魔力を使って死んだんです。
言っておきますが、魔女は人間を助けるために死んだのではないですからね。
友人を助けるために死んだのです。人間が意味の無い戦争を繰り返し、意味もなく木を切り刻む。貴方達人間に友人の痛みが伝わりましたか?伝わるわけないですよね。私達魔女は友人達の痛みが伝わっていたんですよ。日に日に悲鳴をあげている友人達をみていられなかった。
私の守る森は魔力が強いため、普通の人が入ったら死にます。
だから、私はまだ生きてるんですよ。あの森の泉と一緒に・・・」
強風が吹き荒れた。フィオナの怒りの主張だろう。
「私は、憎いだけで殺そうとは思えません。何故、人間ではなく魔女が死んでしまったんですかね・・・」
最後は小さく儚げに、だが、本心からのーーーー・・・
『お前達が死ぬべきなのに』
ジークの頭に直接鳴り響いた。
フィオナの肩に乗っていたカイが、お前、馬鹿だよ・・・と呟いてジークの前から消えた。
ジークはフィオナが消える際に魅せた淡い笑みに触れようとしたが、それは叶わなかった。




