お祭りで…1
「今日って城下で夏樹祭があるのか?」
業務で山のように積み上げられている書類に目を通していた時に、フィオナの声が聞こえた。
そういえば、もうそんな季節か…
夏樹祭とは城下の人々が、これから夏になるということで作物が丈夫に育つようにと祈りと陽の有り難みを祝う、年に一回の祭りだ。
祭りとかあまり興味が無さそうなフィオナが聞いてくるなんてどうしたのだろう。
ジークはフィオナの方に目線を移す。
「それがどうかしたのか?」
「いゃ…別にちょっと興味があるだけ…。」
「行ってみたいのか?」
陛下がクッと喉を鳴らして不敵な笑みを見せる。
「いいのか?」
フィオナは少し驚いた風に問返した。
「何故、ダメな理由がある?」
「私は魔女だぞ…」
「そんなのは関係ない。夜には帰って来いよ?」
陛下の言葉を聞いたフィオナは満面の笑みではいっと答えた。
*****
「ねぇテル。この髪色は目立つかしら?」
フィオナが自分の長い髪を束ねてテルに見せる。
「悪い意味では目立たないと思いますよ。」
「うーん…切ろうかな…」
フィオナの唐突な呟きにテルは青ざめた。
余程ショック
が大きかったのか持っていたカップを落とした。床にはまだ中身が入っていた為、紅茶が絨毯に飛び散ってしまった。
「あーらら、テルどうしたの?こんな失敗してしまうなんて珍しいね。」
フィオナの呑気な言葉にフルフルと体が震えたテルは大きく息を吸い込み叫んだ。
「な、なにを言ってるんですかーーーーフィオナ様!!!フィオナ様のこんな可愛らしく艶やかなこの髪を切ろうかな。なんて!!お願いです!やめて下さい。断固拒否です!目立つのがお嫌でしたら目立たないように私が施しますから!ね?そうしましょう!ですから絶対の絶対の絶対に髪を切らないで下さいね!?」
泣きながらフィオナの両肩をゆさゆさと揺らして懇願してくるテルに、少し後退りたくなった。
「わ、分かった。髪は切らない、じゃあ目立たないように宜しくね、テル」
「任せて下さい」
そう言ったテルが直様取り掛かった。
まず、フィオナの前に出したのはスラリとしているが裾の方がふわっと膝上まで広がっていて着やすいデザインの青いワンピースだった。青いワンピースには白のレースが施されており高級感もあった。
さすがテル。
次に髪をやってもらった。今日は全部纏めず、片方に流れる手つきで編み込みをしていってくれる。青と白のボーダーのリボンをキュッと結んで貰い髪は完成だ。
後は軽くメイクをして貰った。
鏡の中の自分を見つめるフィオナ。
「うわぁすごい…」
フィオナは編み込みというのをされた事が無いのでとても興味深々に見ていた。言葉に出た意味は大半が編み込みへの感心だろう。
フィオナは今、白い肌に似合う青のワンピースを着ていて長い銀髪はゆるりとテルに片方編み込まれていてなんとも言葉に出来ない美しさを醸し出している状態であった。
フィオナが編み込みに興味を持っている中、テルが壁際で何やら悶えていた。
フィオナ様はご自分のお美しさが分かっておいでなのか…
実に稀な容姿にも関わらず絵画から抜け出たような顔立ちで身体も流れるような曲線…男がほっとく訳が無い。
やはり、もっと『フィオナ様ファンクラブ』を徹底させた方がいいわね!
ファンクラブ隊長として義務みたいなものだわ。
悪い虫がついたら排除すればいいだけだし。
そんな事をテルが考えてるとも知らないでフィオナは胸の高鳴りを抑えずにはいられなかった。
楽しみで仕方がないのだ。
「フィオナ様、呉々も私から離れないで下さいよ!」
我に返ったテルがフィオナにお願いをする。
見てくれは美形な顔だから要らぬ虫が来ない様にだ。もしも、フィオナがテルから離れたら絶対に襲われる。
この時のテルの頭の中にはフィオナが魔女で陛下よりも強いとは頭の片隅にも置いては居なかった。
ガヤガヤと色んな種類のお店が並び四方八方から良い香りが立ち込める。
人が多すぎて、真っ直ぐに進めないほど城下は賑わっていた。
「で、!どうしてイオン様が居られるのでしょうか?」
「俺がいた方が護衛になると思うからですよ。テルさんも騎士だけど女の子だからね、危ないでしょ?」
イオンが言った言葉にテルは鼻で笑う。
「余計なお世話です。イオン様、いい加減フィオナにストーカーみたく付き纏うのはやめていただけませんか?はっきり言って目障りなんです。」
冷徹に言い放ったテルに対してイオンは笑顔を絶やさない。
「ストーカーは酷いですよ。俺だってフィオナ様をお護りするんですから。第一フィオナは俺の我が姫なんですよ?」
「黙れ餓鬼め。小童が何をぬけぬけと、」
「俺これでも影の魔法騎士団長なんだけど…」
「中身は餓鬼だろ、さぁフィオナ様、こんな小童置いておいてどれから見ますか?フィオナ様?」
テルのフィオナを探す顔がみるみるうちに青ざめていく。フィオナがいなくなっていたのだ。
テルは木にガンと右手を叩き己の失態に苛立っていた。
あんなに楽しみにしていたのだから絶対に何処かに行ってしまうに決まってたのに、唯でさえ城の中でも迷子になるような方なのに。
「っっ…」
テルは声にならない苦しみを味わっていた。
どうしようどうしよう。
自分が目を離した隙に質の悪い男共に絡まれて怪我でもしてしまったら、いや、怪我ならまだ良い…フィオナ様に命の危険があったりしたら……
何度も何度も木に自分の右手を叩き続ける。テルの右手からは所々から血が出ていて木にも染みているほどだ。
だが、そんなのはテルにとってどうでもいい事…もう一度勢い良く木に右手を叩きつけようとしたら誰かに遮られた。
「やめろ」
低く鋭い眼つきをしてテルの右手を掴む。ギリっとした痛みが伝わるがそんなの屁でもない。
「くっ…」
テルは苦い顔をする。
「そんな事をしても何もならないだろう!増してや騎士としての大事な手を傷付けて、今は一刻も早くフィオナ様を見つけることが適切だとは思わないのか!?責任を感じるのは分かるが、今できる事をしろ!しないなら邪魔だ!俺の目の前で自身を傷付けるな!」
何時もならあり得ない気迫にしかも、的を当てられ口ごもる。
「…確かにそうね。こんな事をしても何もならないのに…感謝するわね……ありがとう。」
テルの珍しい微笑みにイオンの胸はトクンッと音をたてた。
今のテルは美形な顔とはかけ離れていて、瞳に涙を溜めた、可愛らしいくらいの女性そのものだったのだからーーーーー。
「では、そうと決まったら二手に別れて探しましょう。見つけ次第、またここでうち会うってことで。では、私はあっちを探してくるからイオン様はそっちをお願いします」
流れるような言い方だったがイオンがテルを止めた。
「待て待て待て」
イオンはテルの肩を持ち引き止める。ポケットからハンカチを取り出したと思ったら豪快に破いた。
「貴方はこんな手のままでいく気ですか?」
テルの右手を優しく包みながら綺麗に破かれたハンカチを巻いていく。
「貴方には助けられてばっかりね…先程は失礼な事を言ってごめんなさい。
前言撤回するわ、貴方はとても頼りになる…」
テルの口調が穏やかでイオン様から貴方になっているのをイオンは気付いているだろうか…
「よし!手、ありがとね!早く探しにいかなくちゃっ」
何だか良い雰囲気だったような気がするがテルにはいち早くフィオナを見つけ出したかったようで、風の速さで露店が並ぶ方向に消えて行った。
「…俺も、探すとしますか。」
手で前髪をたくし上げ、先程テルが行った反対側を歩いてイオンは人混みに紛れて消えた…。




