汚い声のネコ
「に゛ゃ゛あ゛あ゛ぁ゛……ッ、げほっ……に゛ゃ゛……ヒック、ヒック……に゛ゃ゛ぁ゛……ぶしゅんッ!」
ひどい声だった。
河原に、場違いなほど汚い鳴き声が響いている。
「やりたかったニャー……」
ぐずぐずと鼻をすすりながら、リンはうずくまっていた。
「極大消滅呪文とかー……」
「アバニャケ……ニャブラとかー……」
「やりたかったニャー……」
完全に引きずっていた。
耳はぺたんと倒れ、尻尾はしなしなと地面に垂れている。
その姿は、どう見ても“捨て猫”だった。
――そこへ。
ピタッ。
足音が止まる。
黄金の鎧が、無言で立ち止まった。
視線の先には、リン。
「……あら?」
隣にいた賢者リュシエルが気づく。
「どうしたのかしら」
ゆっくりとリンに近づき、腰を落とす。
「大丈夫?」
優しい声。
「に゛ゃ……」
リンは顔を上げる。
そして。
ぽつりぽつりと事情を話し始めた。
――魔力がないこと。
――魔法が使えないこと。
――やりたかったこと。
話し終える頃には、また涙が滲んでいた。
「なるほど……。」
リュシエルは静かに頷く。
「それなら、方法はあるわよ」
「……え?」
リンの耳が、ぴくりと動いた。
「魔法が使えないなら――使わなければいいの」
「この世界にはね、“道具”があるの」
指を一本立てる。
「まず、魔力を持たない普通の道具」
「次に、魔力を宿した“魔法具”」
「これは属性が合えば強力だけど……合わなければ最悪、命を落とすこともあるわ」
リンがびくっと震える。
「でも」
リュシエルは少しだけ笑みを深めた。
「さらに上があるの」
「意思を持ち、膨大な魔力を秘めた――」
「“魔宝具”」
「いわば神器ね」
「……」
リンの目が、少しずつ見開かれていく。
「そして」
「あなたは魔力ゼロ」
「つまり――制限なく扱える可能性がある」
「魔力を封じる相手が現れたら戦えるのは、
あなた“だけ”になるかもしれないわ」
しなびていた尻尾が、ぴくりと動く。
「……でも」
リンはおそるおそる聞いた。
「道具って……お高いんでしょう?」
「大丈夫よ!」
リュシは即答した。
「最初は私のコレクションを分けてあげるわ」
「しかも――」
指をビシッと立てる。
「送料無料!」
「にゃっ!?」
尻尾が一気に立ち上がる。
「やるニャ!!」
リンは立ち上がった。
「私、アイテムマスターになるニャ!!」
さっきまでのしょんぼりはどこへやら。
目がキラキラしている。
その様子を。
少し離れた場所で見ていた皇帝が――
無言で、親指をぐっと立てた。
こうして。
リンの新たな方向性が決まり。
そして――
地獄のような修行が、本格的に始まることになる。




