よくある修行パート
それからの日々は、修行漬けだった。
朝から晩まで走り込み。筋力訓練。魔力制御。座学。食事。睡眠。そしてまた修行。
特に基礎体力づくりは過酷だった。
「あと五十本!!」
「死ぬぅぅぅぅ!!」
アキラの悲鳴が今日も響く。
ジーコは比較的余裕があるが、それでも疲労は隠せない。リンに至っては途中から「ニャ……ニャ……」と鳴き声しか出なくなっていた。
しかも食事も酷い。
魔力や体力向上に効果があるらしいが、味は壊滅的だった。
「……これ、本当に食べ物ニャ?」
「うん。美味しくはできなかった〜」
料理担当のフレデリカですら、申し訳なさそうに目を逸らすレベルである。
一方、リンだけは別メニューだった。
なぜか巨大な玉の上に乗せられ、ジャグリングの練習をさせられている。
「落ちるニャアアア!!」
「バランス感覚は大事よ〜」
リュシエルが楽しそうに拍手していた。
そんな日々を過ごす中で、レイとツクモは別の訓練を受けていた。
こちらは座学だ。
この世界の歴史、文化、国、一般常識。フレデリカとババ様が教師役になっている。
「帝国と魔国は、昔戦争をしていました〜」
フレデリカが地図を指差しながら説明する。
「約十四年前、ちょうど私が生まれた年に終戦して〜、魔国は帝国の一部になったんです〜」
「魔族っていうのも、人とそんなに違いはありません。寿命も同じですし〜」
自分の角を軽く触る。
「あ、でも私みたいにツノとか尻尾がある亜人種もいます〜」
レイとツクモは静かに話を聞いていた。
「今、この魔国領にいるのは、お父さんとおばあちゃんと私だけです〜。ミューズさんは元々この国の人じゃないし〜」
少し寂しそうに笑う。
「ここに住んでた人たちは、みんな帝国とか他の国に行っちゃいました。ここ、田舎で不便だし〜。私は好きだけど……」
少しだけ空気が静かになる。
だが、フレデリカはすぐに切り替えた。
「じゃあ次は帝国のお話ね〜」
地図の反対側を指差す。
「皇帝、リオン・エルデン様。戦争の時は、よくお父さんと戦っていたんだって〜」
「そして長女、セレスティア・エルデン様。この方が次の皇帝様になると思います〜。国民みんなからの支持もすごいんだよ〜」
「さらに次女、アリアドネ・エルデン様。この方は〜――」
そこまで言いかけた時だった。
「お、やってるか」
部屋の扉が開き、魔王が入ってくる。
「お父さん〜。アキラさん達は?」
「今日はミューズに任せてきた。俺は休憩だ」
魔王は畳にどかっと座り込み、ふぅと息を吐いた。
「大丈夫。あいつら、ちゃんと強くなってるよ。この世界で最低限生きていけるくらいにはな」
どこか嬉しそうに笑う。
「そのうち、俺を超える奴も出るかもな〜。ガハハ!」
冗談っぽく笑うが、完全な冗談でもない声音だった。
そして。
「それにしても……」
魔王がぽつりと呟く。
「皇帝も、やっぱ衰えたよな〜」
その瞬間。
フレデリカの肩が、小さく揺れた。
それに気づいたババ様が、静かに視線を向ける。
だが、魔王は全く気づいていない。
「今でも強ぇけど、昔ほどのプレッシャーは感じなくなったなぁ」
懐かしむように笑う。
「まぁ、あいつらの最終テストを頼むつもりだし、日頃の礼も兼ねて何か考えとかねぇとな〜」
「……そうだね〜」
フレデリカは笑顔で返した。
だがその声は、少しだけ硬かった。




