確信
ある日の修行終わり。
「みんなお疲れ〜」
魔王が手をひらひら振る。
「悪い、アキラだけちょっと残ってくれ」
「え? 俺ですか?」
不思議に思いながらも、アキラは頷いた。リンたちは先に屋敷へ戻っていく。
「じゃ、行くか」
魔王について歩き始める。向かった先は屋敷から少し離れた森の奥だった。普段の修行場よりさらに人気が少なく、木々の隙間から差し込む夕陽だけが地面を照らしている。
「……師匠?」
「さて」
魔王が小さく呟く。
「悪いな」
その瞬間、視界が傾いた。
ゴトッ――。
自分の頭が地面に落ちる音が聞こえる。
「――っ」
何が起きたのか理解できない。首から下の感覚が消えている。声を出そうとしても喉がない。
そして、そのまま意識が落ちた。
*
無言のまま、魔王はアキラの死体を見下ろしていた。
ジジジ……ギギギ……
耳障りな音が森に響く。
切断された首元の空間が歪み、ノイズのような揺らぎと共に肉と骨が高速で再生していく。落ちていた頭部は、いつの間にか消えていた。
「……やっぱりか」
魔王は小さく呟き、回復魔法をかける。
「――ぶっ!?」
アキラが勢いよく飛び起きた。
「はっ!? え!? し、師匠!?」
数秒遅れて状況を理解する。
「なんで裏切ったんですか!?」
烈火の如く怒るアキラ。
「悪い」
魔王は素直に頭をかいた。
「どうしても確かめなきゃならなかった」
「……とりあえず座れ。ちゃんと説明する」
納得はいかなかったが、アキラはしぶしぶ腰を下ろした。
「これで、お前が死ぬのを見るのは二回目だ」
「……え?」
「そして二回とも、お前は再生した」
アキラの顔から少しずつ怒りが消えていく。
「おそらくだが……お前は“不死者”だ」
森が静まり返る。
「そもそも、この世界には死から復活する魔法は存在しない。どんな生き物にも平等に死は来る」
「……だがお前は違う」
「多分、その力は元の世界から持ってきたものだ。そして、この世界の魔力で強化された」
言葉が出なかった。
確かに死んだ感覚があった。なのに今、自分は生きている。
「で」
魔王が真っ直ぐアキラを見る。
「お前はこれから、どうしたい?」
「……え?」
「正直、お前は無敵に近い。だって死なねぇんだからな。もちろん痛みや精神的な問題は別だが……」
「そんなお前が、この世界で何をしたい?」
優しい声だった。だが、その目は真剣だった。
アキラは少しだけ考え――迷わず答える。
「誰かの役に立ちたいです」
「困ってる人がいたら助けたい」
「こんな俺でも、生きる意味とか役割とか……そういうのが出来るなら最高だと思う」
少し笑う。
「あと、せっかく知らない世界に来たんだし、みんなで旅とか冒険もしてみたいです。それと――」
「あーもう分かった分かった!」
魔王が笑いながら止める。
「お前、欲張りだなぁ」
「えへへ……」
「よし」
魔王は立ち上がった。
「じゃあ、お前にしかできない戦い方と魔法を、みっちり教えてやる。覚悟しとけよ」
「はい、師匠!」
アキラも勢いよく立ち上がる。
二人はそのまま屋敷への帰り道を歩き始めた。
「……さっきは本当に悪かったな」
「いえ。でも師匠、本気だったら俺、多分消滅してません?」
「復活できるのかもしれないですけど……」
「まぁ、それも含めて今後調べるか」
そんな話をしながら森を抜けていく。
だが。
(……保険は必要だな)
魔王の目には、まだ警戒の色が残っていた。




