ジーコ 幕間
明日からの修行に備え、皆は雑魚寝をしている。そんな中で、ジーコだけが眠れずにいた。
窓の外に目をやる。夜空はどこまでも静かで、やけに遠く感じる。
「……大事な、家族なんです」
ぽつりと呟く。あのとき自分の口から出た言葉だ。
嘘ではない。本心だと分かっている。だからこそ、戸惑う。
元の世界での自分は昆虫でゴキブリだった。
嫌われ者で、見つかれば潰される側。
近づいてくるのは、いつも“殺す側”だけだった。
「……まぁ、そういうもんだしね」
肩をすくめるように、小さく息を吐く。
理不尽だと騒いだことはない。受け入れていたし、それが普通だった。
死は身近で、命の価値なんて皆同じで軽いものだと思っていた。人も動物も、自分も例外じゃない。消えるときは一瞬。それ以上でもそれ以下でもない。
それなのに。
「……なんでだろ」
視線を落とす。
あの瞬間だけは違った。
フレデリカを庇ったアキラを見たとき、本気で死んでほしくないと思った。助けたいと、はっきり思った。
「……らしくないよね、うち」
苦笑が漏れる。
理屈じゃない。反射に近い感情だった。
自分の中にあった前提が、わずかに揺らいでいる。
命は軽いはずなのに、重く感じた。
「うちが変わったのか、それとも……」
言いかけて、止める。
「……ま、いっか」
小さく首を振る。
今考えても答えは出ないし、無理に出す必要もない。
それよりも。
「……ちょっと楽しみだし」
明日からの修行。この世界での生活。面倒そうで、でも退屈はしなさそうだ。
そう思える自分がいることに、少しだけ驚く。
変わったのかどうかは、そのうち分かるだろう。
「答え合わせは、後でいいよね」
誰に言うでもなく呟く。
視線を室内へ戻すと、眠っている仲間たちの姿がある。
さっきまで騒がしかったはずなのに、今は静かで。
それが、少しだけ心地いい。
「……おやすみ」
小さく言って、空いている隙間に身体を滑り込ませる。
考えるのは、明日でもいい。
ジーコは目を閉じた。




