再開と新しい出会い
「――ぶっ!? はぁっ!?」
肺に空気が一気に流れ込む感覚。アキラは反射的に上体を起こした。
「っ!?」
ベッド脇にいた少女がびくりと震える。
「お、お父さーん! 目、覚ましたー!」
ぱたぱたと部屋を飛び出していった。
「……え?」
取り残される。
「俺……死んだ、よな?」
腕を動かす。指を握る。胸に触れる。――異常はない。
「なんで生きてんだ……?」
記憶ははっきりしている。衝撃も、痛みも、確かにあった。
バタンッ!!
「すまんかった!!」
「うおっ!?」
大柄な男が飛び込んできて、そのまま深々と頭を下げる。
「俺らの戦いに巻き込んでしまった! そしてフレデリカを庇ってくれて――ありがとう!!」
とにかく声がデカい。
ガタガタガタ……ッ、と窓ガラスが震え、細いヒビが走る。
「ちょ、声デカすぎ……!」
思わず耳を押さえるアキラ。
男は顔を上げ、さっきとは打って変わって静かに言った。
「……無事で、本当によかった」
(……さっきまでの人だよな)
あの戦場にいた相手。名前はまだ分からないが、ただの人間じゃないのは確かだ。
案内されて大広間へ出る。
高い天井、重厚な柱、壁には見慣れない紋章。いかにも“異世界の館”。
視界の端では、派手なスーツの坊主頭の男が石畳に正座させられている
見なかった事にしよう
視線を巡らせた瞬間――
「……っ!」
リンとジーコが同時に反応した。
「アキラっ!」
「アキラ!?」
二人は間髪入れず駆け寄ってくる。
「大丈夫ニャ!?」「ほんとに生きてる!?」
触れて、確かめて、顔を覗き込む。驚きと不安がそのまま表に出ていた。
――そして。
「……よかったぁニャア」
「マジで……びびったんだけど」
ほっと力が抜ける。安堵が滲む。
「悪い。心配かけたな」
アキラは苦笑して頭をかく。
「でも、お前らも無事でよかった」
「当然でしょ☆」「……うん」
ようやく周囲を見る余裕が出る。
黄金の鎧を纏った騎士と、隣に立つ女賢者。さらに――
穏やかに微笑む老婆。
優しげなのに、空気が妙に重い。
(……この人、なんだ?)
本能が警戒を鳴らす。
「ツクモとレイちゃんは?」
「外にいるよ〜。運んでもらった」
ジーコが軽く顎で示す。
視線の先、黄金の騎士が無言で頷いた。
(ツッコミたいこと多いけど……後だな)
「あ、あの……」
おずおずとした声。振り向くと、さっきの少女が立っていた。
「助けていただいて……ありがとうございました〜」
ぺこりと頭を下げる。少し間延びした口調。でも、感謝の気持ちはまっすぐ伝わる。
「私はフレデリカって言います〜。アキラさん、ですよね? リンちゃんとジーコちゃんに聞きました〜」
銀色の角と尻尾が、ぱたぱたと揺れる。
「これから、わたしたちも自己紹介しますね〜」
にこり、と笑った。
フレデリカがそう言うと、「どっこいしょ」と大きな地図を床に広げた。
「ここは〜大きな国、“帝国”の中にある〜魔国領って呼ばれてる場所です〜」
指でざっくりと円を描きながら説明する。
そして、くるっと振り向く。
「で〜この人が〜魔国領の魔王様〜。わたしのお父さんです〜」
先ほどの大柄な男を指さす。
「どうも」
軽く手を上げる。
(軽いなこの人……)
アキラが内心でツッコむ。
続いてフレデリカは、にこっと笑って老婆の方へ向いた。
「そして〜おばあちゃん!」
ぴしっと指差す。
「わたしはおばあちゃんって呼ぶけど〜みんなはババ様って呼んでるよ〜」
「よろしくね」
柔らかい声だった。
だが。
(……やばい)
本能が警鐘を鳴らす。
笑顔なのに、圧が異常だった。
「あら〜ワタシもいるわよ〜!」
場違いなテンションで声が上がる。
視線を向けると、石畳の上に正座したままの派手なスーツの坊主頭。
「召喚士、ベルベット・ミューズよ〜! 以後お見知りおきを〜!」
「……まだそれ続いてんだ」
小声でジーコが呟く。
どうやら石畳の刑は継続中らしい。
「じゃあ今度はこっちの方〜」
フレデリカが賢者の方へ向く。
「賢者のリュシエルさん〜」
「こんにちは」
柔らかく、落ち着いた声。
どこかいい香りがする。
「……」
アキラの表情が緩む。
「アキラ、顔」
リンが冷静にツッコむ。
「いや、そんなことないですけど?」
無駄にいい顔で返した。
「そしてそして〜」
フレデリカが、少しだけ声を弾ませる。
「この黄金の鎧の方が〜帝国の皇帝様なんです〜!」
場の空気が、わずかに引き締まる。
黄金の鎧は、無言のまま立っている。
ただそれだけで、圧がある。
「……えっと」
アキラが手を挙げる。
「今めっちゃ仲良さそうですけど……さっきまで最終決戦してませんでした?」
「いい質問だ」
魔王がニヤッと笑う。
「そいつから説明しよう」
腕を組み、少しだけ視線を上げる。
「魔王になる者にはな、“衝動”ってのがあってな」
「これが勝手に継承される厄介な代物だ」
「魔力は上がる。だが同時に――破壊衝動もな」
「放っておくと、ロクなことにならねえ」
「だから定期的に戦う。ガス抜きってやつだ」
あっさり言う。
「で、俺の相手が務まるのが――」
ちらっと横を見る。
「皇帝様くらいしかいねえ」
黄金の鎧は、無言。
「だからお忍びで来てもらってるわけだ」
「周りに被害が出ねえように、結界も張ってな」
石畳の坊主を親指で指す。
「今回もあいつに頼んでたんだが……」
「イレギュラーが起きた」
アキラたちを見る。
「お前らの転移だ」
「その影響でフレデリカも迷い込んだ」
「で、今に至るってわけだ」
「……いや」
アキラがぽつりと言う。
「ただのガス抜きで、あんな最終決戦やる?」
「やる」
即答だった。
「えぇ……」
アキラたちの顔から、色々な自信が消えていく。
(この世界……大丈夫か……?)
それを見てか。
魔王が少しだけ真面目な顔になる。
「詫びも兼ねて、提案がある」
「一年」
「一年で、お前らを鍛えてやる」
「この世界で生きていく術を、全部叩き込む」
「悪い話じゃねえと思うが――どうだ?」
あまりにも出来すぎた話。
だが。
他に、頼れる場所がないのも事実だった。
戦う力もない。
知識もない。
この世界のことを、何も知らない。
「……なら」
迷う理由はなかった。
「よろしくお願いします」
アキラは、即答した。
「ちょっと、即決すぎるニャ」
リンが小声で言う。
「でも……他に選択肢ないしな」
ジーコも頷く。
「……でさ」
リンが魔王を見る。
「なんでそこまでしてくれるニャ?」
一瞬の間。
魔王は、当たり前のように答えた。
「お前ら、家族なんだろ?」
外の方へ視線を向ける。
「外にいる連中も含めてな」
そして、笑う。
「家族は大事にするもんだろ」
「守んなきゃな」
その言葉は。
妙に――
眩しかった。




