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死なない俺の使い方  作者: 鬼瓦源次郎
昔話

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20/23

戦争が終わった日

一章 エピソード0


 戦場から二人が消えた。


 帝国軍を率いる戦士。


 魔王軍幹部、竜神。


 互いに幾度も刃を交えた宿敵。


 その日も決着はつかなかった。


 最後の一撃。


 天地を裂くような衝突。


 光。


 轟音。


 そして――二人は消えた。


 生死不明。


 帝国軍も魔王軍も、そう結論づけるしかなかった。


 


 だが二人は死んでいなかった。


 ただ流されていた。


 誰も知らない島へ。


 地図にもない。


 戦争もない。


 名前すらない島へ。


 


 記憶は失われていた。


 名前も。


 使命も。


 憎しみも。


 


 最初は警戒した。


 それでも生きる為には協力するしかなかった。


 魚を捕り。


 火を起こし。


 小屋を作り。


 くだらない事で笑った。


 


 雨の日。


 風の強い夜。


 何もない空を見上げながら。


 


 少しずつ。


 本当に少しずつ。


 他人だった距離が消えていった。


 


 気づけば隣が当たり前になっていた。


 


 そして。


 子供ができた。


 


 それを聞いた時。


 二人は、ただ笑った。


 


 幸せだった。


 


 間違いなく。


 人生で一番。


 


 幸せだった。


 


 ――だから。


 


 最初に記憶が戻った竜神は苦しんだ。


 


 隣に眠る男。


 


 帝国軍の戦士。


 


 数え切れない仲間を殺した敵。


 


 今なら殺せる。


 寝首をかけば終わる。


 


 だけど。


 


 伸ばした手は。


 最後まで剣に届かなかった。


 


「……どうすれば、いいんだ」


 


 答えは出なかった。


 


 そうして時が過ぎ。


 今度は戦士の記憶も戻った。


 


 何も言わなかった。


 


 言えるはずもなかった。


 


 そして。


 二人は元いた場所へ帰った。


 


 帝国軍へ。


 魔王軍へ。


 


 何も変わらない世界へ。


 


 そして時は流れ。


 


 竜神は、一人の女の子を産んだ。


 


 小さな角。


 小さな尻尾。


 


 人にも魔族にも似た子。


 


 抱き上げる。


 


 笑った。


 


 その顔は。


 


「あは……」


 


「あんたに、そっくりだ」


 


 泣きながら。


 笑った。




 竜神は、生まれたばかりの子供を先代魔王へ託した。


 



 そして覚悟した。


 


 決着をつけに行こう、と。


 


 だが。


 そう思っていたのは自分だけではなかった。


 


 思い出の島。


 


 あの日と同じ場所。


 


 そこで二人は再会した。


 


 何も言わない。


 


 言葉なんて必要なかった。


 


 剣を抜く。


 


 空が裂けた。


 海が割れた。


 島が悲鳴を上げた。


 


 そして。


 双方の軍勢も辿り着く。


 


 帝国軍。


 魔王軍。


 


 互いに包囲し合い。


 今にも戦争が始まりそうな空気。


 


 加勢しようとした。


 


 だが。


 


「来るな!!」


 


 鬼気迫る叫びだった。


 


 二人の覚悟を見て。


 誰も動けなくなった。




 そして。


 決着がついた。


 


 相打ち。


 致命傷。


 助からない。


 


 誰の目にも明らかだった。


 


 竜神が笑う。


 血を吐きながら。


 戦士が笑う。


 


「子供は……どうだ?」


 


「お前に似て……美人か?」


 


 竜神が吹き出す。


 


「バカ……」


 


「笑うと……あんたにそっくりだよ」


 


 二人で笑った。


 


 静かな笑いだった。


 


 しばらくして。


 


 戦士が言った。


「多くの魔族を殺した」



 竜神が答えた。


「多くの人を殺した」


 


 長い沈黙。


 


「今更、自分達だけ生きるなんて」


 


「できないな」


 


「……あぁ」


 


「死んでいった仲間にも」


 


「戦士として生きてきた、自分達にも」


 


 でも。


 


 本当は。


 


 もっと一緒にいたかった。


 


 子供の成長を見たかった。


 


 笑いあいたかった。


 


 幸せに生きたかった。


 


 自分の指を握った、小さな手を思い出す。


 


「ただ」


 


「ただ……あの子が生きる世界は」


 


   どんな形でも……


   素晴らしい世界でありますように……


 


 戦士が小さく聞く。


 


「そういえば」


 


「名前は?」


 


 竜神は笑った。


 


「フレデリカ」


 


 昔。


 二人で決めた名前だった。


 


「……そうか」


 


 竜神は。


 そこで静かに息を引き取った。


 


 しばらく。


 戦士は動かなかった。


 


 やがて。


 抱きしめたまま。


 空へ叫ぶ。


 


「聞こえるか!!」


 


「魔王軍幹部、竜神は倒した!!」


 


「俺が――俺が殺した!!!!」


 


 島中へ響く声。


 


「これをもって!」


 


「帝国軍は戦争を終えてはくれないか!!」


 


「魔王軍!!聞こえるか!!」


 


「俺は多くの魔族を殺した!!」


 


「許されるとも思っていない!!」


 


「だけど!!」


 


 刀を。


 自分の腹へ突き刺した。


 


「俺の命で!!」


 


「この戦争を終わらせてはくれないか!!」


 


 血を吐く。


 


「愛し合える事を知った!!」


 


「手を取り合える事を知った!!」


 




「どうか!!」


 


「どうか平和を!!」


 


「身勝手なのはわかってる!!」


 


「それでも!!」


 


「それでも――」






      あの子の未来が……


      幸せでありますように……


     


 


 刀から炎が上がる。


 


 二人を包む。


 


 その最後まで。


 


 繋いだ手だけは。


 


 決して離れなかった。






 二人を包んだ炎は、やがて静かに消えた。


 島には風だけが吹いていた。


 誰も動けなかった。


 帝国軍。


 魔王軍。


 剣を握ったまま、立ち尽くしていた。


 長かった。


 あまりにも長かった戦争だった。


 失った者。


 殺した者。


 殺された者。


 多すぎて。


 もう誰も、終わらせ方が分からなくなっていた。


 そんな中。


 一人の男が前へ出る。


 魔王。


 ジン・ヴォルフガング。


 いつも笑っている男は、その日だけ笑っていなかった。


 炎の前で立ち止まる。


 少しだけ肩を震わせ。


「……馬鹿野郎」


 小さく呟く。


「勝手に全部背負いやがって」


 返事はない。


 当然だった。


 もう二人はいない。


 ジンは振り返る。


「……帰るぞ」


 その言葉だけ残して歩き出した。


 そして数日後――


 帝国。


 皇帝の間。


 巨大な赤絨毯。


 黄金の鎧を纏った皇帝。


 その前へ、ジンは一人歩いた。


 武器はない。


 護衛もいない。


 ざわめきが広がる。


「魔王……!」


「警戒しろ!!」


「何故ここに!」


 だが。


 誰も近寄れなかった。


 近づけば分かる。


 戦いに来た顔ではなかった。


 玉座の前。


 ジンは止まる。


 


 ――ドカッ。


 


 その場へ乱暴に腰を下ろした。


 胡座。


 


「無礼だぞ!!」


「皇帝陛下の御前で――!!」


 


 誰かが叫ぶ。


 だがジンは見向きもしない。


 


 静かに腕を膝へ置いて。


 


「……降伏する」


 


 空気が止まった。


 


「魔国は降伏する」


 


 誰も声を出せない。


 


「戦争は終わりだ」


 


 沈黙。


 


 ジンは続けた。


 


「……足りねぇなら」


 


 


「俺の命もくれてやる」


 


 


「俺が魔王だ」


 


「俺を殺しゃ納得する奴もいるだろ」


 


「だから」


 


「終わらせてくれ」


 


 静寂。


 


 誰も。


 本当に誰も言葉を出せなかった。


 


 その時だった。


 


「ふざけんな!!」



 一人の兵士が叫んだ。


 


「なんでお前まで死ななきゃいけないんだ!!」



 次々に声が上がる。



「そうだ!!」


「もう充分だろ!!」


 


 誰かが剣を捨てた。


 


 カラン。


 


 また一人。


 


 カラン。


 


 槍が落ちる。


 盾が落ちる。


 


 一人。


 また一人。


 


 戦う理由が。


 地面へ落ちていった。


 


 皇帝は黙っていた。


 


 静かに立ち上がる。


 


 大剣を抜く。


 


 一瞬、全員が緊張した。


 


 そして。


 


 皇帝はジンの前まで歩き。


 


 大剣を。


 


 地面へ突き刺した。


 


 戦場でしか振るわれなかった剣を。


 


 初めて。


 


 置いた。


 


 言葉はなかった。


 


 だけど。


 


 誰よりも重い答えだった。


 


 その日。


 


 長かった戦争は終わった。


 


 誰かが勝ったからじゃない。


 


 誰かが負けたからでもない。


 


 二人の願いを。


 


 残された者達が選んだからだった。


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