無理にとは言わないよ 無理にとは
「――よし!」
アキラはパンッと手を叩いた。
「ずっと家にいてもしょうがねえし……外、探索しに行こう!」
勢いだった。
期待と不安をごちゃ混ぜにして、無理やり前向きな声にしただけだ。
実際問題。
考えるべきことは山ほどある。
空気は吸えるのか。
水は安全か。
食料はあるのか、それは食べられるのか。
病気は?言葉は?
この世界の人間は敵か味方か。
そして――もし戦うことになったら。
(俺らに、戦える力なんてあるのか……?)
思考が沈みかける。
――が。
「……いや待てよ」
アキラはふと顔を上げた。
(レイなら……)
幽霊だ。
つまり、物理干渉を受けない可能性がある。
(偵察とか、最適なんじゃ――)
そう言いかけた、その瞬間。
「とりあえずさ〜」
ジーコが軽い調子で手を挙げた。
「外の偵察、誰行く?」
「……あ」
完全に出鼻をくじかれた。
「いや、俺ちょうど――」
「そういえば」
レイがぽつりと呟いた。
全員の視線が集まる。
『……アキラ』
「な、なんだ?」
『あなたの持っている、その……小さい板』
「スマホのことか?」
『……そう』
一拍。
『あれで、よくエッチな動画見てる』
空気が止まった。
「……は?」
「待て待て待て」
『……音も、出ている』
「待てって言ってんだろ!?」
顔が一気に熱くなる。
まさかの方向からの攻撃だった。
だが、追撃は止まらない。
『補足します』
ツクモが淡々と続ける。
『該当コンテンツの視聴頻度は、おおよそ二日に一回』
「やめろ」
『なお週末に関しては、一日三回に増加する傾向があります』
「やめろって言ってんだろ!!」
「え、なにそれウケるんだけど☆」
ジーコがケラケラ笑う。
「……たまに、声大きいニャ」
リンがぼそっと言った。
「びっくりするニャ、夜」
「やめろおおおおおお!!」
もう無理だった。
逃げ場がない。
(終わった……)
一人暮らしのはずだった。
確かに、昨日まではそうだった。
だが今は違う。
意思を持った同居人たちに――
プライベートも、趣味も、下半身事情も。
全部、筒抜けだった。
「……はぁ」
アキラは天を仰いだ。
そして、ゆっくりと視線を戻す。
覚悟を決めた顔だった。
「――みんなの安全のために」
ビシッと指を立てる。
「このアキラ、自ら偵察に行ってきます」
「え、ただの逃げじゃね?」
「違います!!」
即否定。
「これはあれだ!責任感だ!!」
「ふーん?」
ジーコがニヤニヤする。
「ま、いってらっしゃい☆」
「……気をつけてニャ」
『危険を感知した場合、即時帰還を推奨します』
『……無理、しないで』
それぞれの声を背に。
「おう、任せろ!」
アキラは勢いよく玄関に向かい。
ガラッと扉を開けた。
「――よし!」
一歩、外へ踏み出す。
その瞬間。
「おのれ皇帝めぇ!!」
空気が、震えた。
「皇帝様!魔王の攻撃が来ます!!」
ドゴォォォン!!
爆音。
衝撃。
視界の先――少し開けた場所で。
とんでもない戦闘が繰り広げられていた。
黒い魔力を纏った、渋いオッサン。
――魔王。
対するは。
黄金のフルプレートに身を包んだ、無言の騎士。
――皇帝。
その背後では、若い女の賢者が叫ぶ。
「防御障壁、最大展開!!」
光の壁が幾重にも重なる。
だが。
「無駄だァ!!」
魔王の一撃が、それをまとめて叩き割る。
皇帝は一歩も引かない。
無言のまま、大剣を振り上げ。
――叩き込む。
ドゴォォン!!
大地が裂けた。
衝撃が、空気を押し潰す。
「皇帝様、押しています!!」
「今です、追撃を!!」
だが魔王も、笑った。
「いいぞ……それでこそだ」
黒い魔力が膨れ上がる。
空間が、軋む。
完全に最終決戦だった。
しかもクライマックス。
「……」
アキラは無言で。
そっと扉を閉めた。
ガラッ。
静寂。
⸻
くるり、と振り返る。
「……すみません」
全員の視線が集まる。
「たぶん今、最終話の二話前くらいの攻防してます」
「何かしてこいよ」
ジーコが即ツッコミ。
「いや無理だろあれ!!」
「いけるニャ」
「いけねえよ!!」
「男見せろよ〜☆」
「見せる場所そこじゃねえだろ!!」
『外部状況の観測は継続が望ましいです』
「だからって命張る必要ある!?」
『……がんばって』
「レイちゃんだけ優しい!!」
⸻
「……いや、でも」
アキラは深く息を吸う。
「ここで引いたら、何も分かんねえしな……」
ぐっと拳を握る。
「……よし」
「お、行く感じ?」
「行くニャ?」
「行きます!!」
半分ヤケだった。
⸻
ガラッ!!
再び、扉を開ける。
「限界を――超えた力を見せてやる!!」
さっきより状況が悪化していた。
「やらせるか!!」
賢者が叫ぶ。
「皇帝様!!」
光が、収束する。
「私の魔力、すべてを!!」
空間が震える。
「最終奥義の準備を!!」
完全に“入ってた”。
ラストバトルに突入していた。
「……」
アキラは。
無言で。
再び扉を閉めた。
ガラッ。
⸻
振り向く。
「……最終話、入りました」
「展開速すぎニャ」
「ウケるんだけど☆」
『事態はより深刻化しています』
「見りゃ分かるわ!!」
アキラは頭を抱えた。
「……どうするこれ」
異世界初日。
最初の一歩。
その一歩目が――
ラスボス戦のど真ん中だった。
次回ちょっと重いかも




