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死なない俺の使い方  作者: 鬼瓦源次郎
第一章 ぼくと魔王

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それぞれの一歩

 ミューズの宴会芸も一通り終わり、夜はすっかり更けていた。


 酔いが回ったリンとジーコは、途中で完全に潰れてしまい、メイド長にそれぞれ部屋まで運ばれていく。


「にゃぁ〜……あと一杯だけニャ〜……」


「ウチまだ飲めるし〜……」


 などと言っていたが、数秒後にはぐっすりだった。


 新生ツクモになった事で客室も増えた為、今日はフレデリカ達も泊まっていく事になっている。


 ババ様。


 皇帝。


 リュシエル。


 ミューズ。


 そしてジン。


 かつて戦争をしていた者達が、同じ屋根の下で酒を飲み、笑っている。


 異世界に来たばかりの頃なら、想像も出来なかった光景だった。


 宴会も落ち着き。


 静かになったリビングでは、アキラとジン、そしてミューズが話し込んでいた。


「……今日まで、本当にありがとうございました」


 アキラが深く頭を下げる。


 すると。


「いいのよ〜」


 ミューズがヒラヒラと手を振る。


「俺も楽しかったしな」


 ジンも笑った。


「で、これからどうするかだが――」


 ジンは酒を飲みながら続ける。


「ここは魔国領とは言っても、かなりの田舎だ。通信も生活環境もそこまで整ってない」


「世界を旅するのもいいが、まずは帝国内の商業都市へ行くのをオススメする」


 アキラは真剣に耳を傾ける。


「帝国の首都は、基本的に選ばれた上流しか入れねぇ。格差はある」


「だが商業都市なら、お前らでも問題なく暮らせるし、この世界について知るには丁度いい」


「――あと、金も必要だしな」


「あぁ……」


 アキラが遠い目になる。


 生きる上で絶対必要なのに、自分が最も縁遠いもの。


 金。


 その時、アキラに名案が浮かぶ!!


「……どうしたの〜? なんか気持ち悪い顔してるわよ〜?」


 ミューズがツッコむ。


「いや、なんでもないっすよ〜」


 アキラは乾いた笑みを浮かべた。



「そういえば」


 アキラが話題を変えた。


「俺達の事、“異世界から来た”って、なんで信じてくれたんですか?」


 前から気になっていた疑問だった。


 するとジンとミューズが顔を見合わせる。


「正直言うとね〜」


 ミューズがグラスを回す。


「異世界から何かが来るのって、初めてじゃないのよ」


「……え?」


「俺は賛同できねぇが、国によっては異世界から人を“輸入”してる所もある」


 ジンが淡々と言う。


 その言葉に、アキラは少しだけ表情を曇らせた。


「過去にも、この世界のものじゃない物や人、動物は何度も見つかってるんだ」


「だから、お前らの話自体はそこまで突拍子もない訳じゃねぇ」


「なるほど……」


 納得はできた。


 だが同時に。


 異世界人という存在が、決して珍しいだけでは済まない事も理解する。


「どちらにせよ〜」


 ミューズがアキラを指差す。


「アナタ達、全員特殊すぎるのよ〜」


「できるだけ目立たない方がいいわね」


「良い人もいるけど〜、悪い人の方が多いし」


 その言葉に、アキラは苦笑する。


「……それ、元の世界でも同じですね」


「はは、違いねぇ」


 ジンが笑った。


 どこの世界でも。


 人の悩みは、案外変わらないのかもしれない。


「助言、ありがとうございました」


 アキラが立ち上がる。


「明日の朝、みんなと話して決めます」


「それで――出発したいと思います」


「おう」


「頑張んなさいよ〜」


 二人に見送られ。


 アキラは静かな廊下を歩いていく。


 異世界に来て。


 右も左も分からないまま始まった日々。


 死ぬような修行。


 騒がしい仲間達。


 笑って、怒って、泣いて。


 気づけば。


 ここはもう、“帰る場所”になっていた。



 朝日が昇り、少し経った頃


 メイド長によって、アキラ達は順番に叩き起こされていた。


「朝です」


「起床してください」


「フレデリカさん達はもう帰られましたよ」


「あと五分……」


「ダメです」


 リンが布団へしがみつくが、メイド長の機械腕によって綺麗に剥がされる。


「ニャアアアア!?」


 一方ジーコは。


「ウチもう起きてるし〜……起きてるって……」


 完全に寝言だった。


 そんな騒がしい遅めの朝食の席で、アキラは昨晩ジン達と話した内容を皆へ伝える。


「――って訳で、まずは帝国の商業都市を目指そうと思う」


 皆も概ね賛成だった。


「異世界観光ってやつニャ!」


「いや絶対トラブル起きるっしょ〜」


「……でも、楽しみ」


 レイも小さく頷く。


 だが。


「あ」


 アキラが止まる。


「ツクモどうする?」


 一同が固まった。


「流石に家は運べないニャ……」


『ですが、ご心配なく』


 メイド長が一歩前へ出た。


「秘策がありますので」


「えー!」


「もったいぶるニャ!」


 リンとジーコがブーブー文句を言う。


 すると。


 メイド長が静かにウインクした。


「それは後ほどのサプライズです」


「腹立つニャ〜!」


 リン達の騒がしい声を背に。


 ツクモを後にした者達は、それぞれの帰路についていた。


 そして。


 ジンの家。


 そこでは、ババ様とフレデリカが静かに向かい合っている。



「おばあちゃん」


 フレデリカが静かに口を開く。


「私ね、帝国に行ってみようと思うの」


「前からリュシエルさんには相談していたの」


 ババ様は黙って聞いていた。


「私は、お父さんの本当の子供じゃない」


「血も繋がってない」


「それでも、お父さんは優しくて、厳しくて、いっぱい愛情をくれた」


「おばあちゃんもそう」


 フレデリカの声が少し震える。


「だからこそ私ね」


「本当のお父さんとお母さんの事も、知らないといけないと思うの」


 一拍。


「かつて戦争をしていた、人と魔族の間に生まれた――私だから」


 ババ様は何も言わない。


 フレデリカは続ける。


「アキラさん達を見てて思ったの」


「怖がってばかりじゃダメなんだって」


「甘えて生きてちゃダメなんだって」


「異世界から来て、何も知らなくて、それでも必死に生きようとしてて……」


 涙が滲む。


「私を助けてくれて」


「みんな見てたら、私もこのままじゃいけないって思ったの」


 ババ様が、静かにフレデリカの目を見る。


 涙で滲んでいる。


 それでも。


 まっすぐ前を向いた目だった。


 だから。


 ババ様は、ゆっくりと口を開く。


「――行ってきなさい」


 優しい声だった。


「誰でもない。貴方の人生だ」


「疲れたり、寂しくなったら帰ってくればいい」


「おばあちゃん〜……!」


 フレデリカが泣きながら抱きつく。


 ババ様は苦笑した。


「ほら、泣いてばかりいないで」


「リュシに挨拶へ行ってきなさい」


「わかった〜!」


 いつもの間延びした喋り方に戻る。


 涙をゴシゴシと拭きながら、フレデリカは走って出ていった。


 バタバタと足音が遠ざかる。


 静寂。


 そして。


「……ジン」


 ババ様がぽつりと呼ぶ。


「そこにいるんだろう」


 柱の影。


 気配だけは、ずっとあった。


 だが出てこない。


「フレデリカの決意は本物だよ」


「あの子も、アイツらの事を知る時が来たんだ」


「あんたも笑って見送ってやんなよ」


 少し間が空いて。


「あぁ」


 低い声だけが返ってきた。


 最後まで。


 男が柱の影から出てくる事はなかった。


 ただ。


 影の向こう側から、何度か乱暴に鼻をすする音だけが聞こえていた。

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