幕間 レイの笑顔
新しくなったツクモのリビングは、以前とは比べ物にならないほど広く綺麗になっていた。
明るい照明。
長いテーブル。
湯気の立つ料理。
「うめぇぇぇニャア!!」
「リンそれ三本目!? 食いすぎだろ〜!」
「アハハハ!! まだまだあるぞー!」
騒がしい声と笑い声が部屋中に響いている。
その様子を、レイは少し離れた場所から静かに見つめていた。
皆が笑っている。
料理の匂い。
グラスの音。
温かそうな食卓。
それを見ているだけで、胸の奥が少しだけ温かくなる。
――でも。
レイは自分の半透明な手を見る。
触れられない。
食べられない。
感じられない。
もう、自分は“そっち側”じゃないのだと、時々思い知らされる。
「ん?」
不意に、アキラがレイの顔を覗き込んできた。
「いつも静かだけど、今日特に静かだなー。どしたん?」
レイは少し困ったように笑った。
「……ワタシも、ご飯食べたいなぁって」
「……」
「でもね、食べれないけど……みんなと一緒にいて、“食卓”っていうのを見るのは、すごい好きなの」
楽しそうに食べる姿を見るのが好きだった。
誰かが笑って、
誰かが怒って、
どうでもいい話で盛り上がって。
そういう時間が、なぜだかとても好きだった。
「それとね……」
レイは少し視線を落とす。
「ワタシ、こっちに来てからも……何もできてないなーって」
「アキラも、リンも、ジーコも修行して強くなって……」
「ツクモはすごいね。魔法使いこなして、あんな事もできちゃうし」
巨大化した家。
動く壁。
増えた部屋。
ツクモはどんどん成長している。
「ワタシも、一応覚えたけど……」
「え?」
アキラが目を丸くした。
「じゃあ見せてよ!」
「えっ、えぇ!?」
急に期待した目を向けられ、レイは慌てる。
「で、でも大したのじゃ……」
「いいからいいから!」
「うぅ……」
レイはもじもじしながら、小さく魔力を込めた。
ふわり、と淡い光が身体を包む。
次の瞬間。
いつものダボダボなスウェット姿が消え――。
黒を基調にしたゴスロリ風のドレスへと変わった。
フリルのついたスカート。
黒いリボン。
繊細なレース。
白い肌と金髪によく似合っていた。
レイは恥ずかしそうに裾を摘む。
「……どう?」
「服装を変えれるようになったの」
「でもワタシ、服とかよくわからないし……役に立たないよね……」
「か……」
「か?」
「可愛いーーーー!!!」
「ひゃっ!?」
アキラが大声で叫んだ。
「レイちゃんすっごくいい!!」
「めちゃくちゃ可愛い!!」
「ほ、本当に……?」
「本当本当! 似合いすぎだろ!」
レイの顔が一気に赤くなる。
ないはずの心臓が、
ドクドクと騒いでいた。
胸の奥が熱い。
なんだろう、この感覚。
苦しくて、でも嫌じゃない。
「……えへへ」
思わず笑みが零れた、その時だった。
「なんか騒がしいニャー?」
リンがひょこっと顔を出した。
「!?」
ボンッ!!
慌てたレイの魔法が解除され、一瞬でいつものスウェット姿へ戻る。
「ん? 今なんか――」
「な、なんでもない」
レイは慌ててアキラの後ろへ隠れる。
そして、アキラへ向かって口元に指を当てた。
――しー。
「……ッ!?」
アキラの心臓が跳ねた。
距離が近い。
悪戯っぽく笑うレイの顔が、やけに近く見える。
ドクン。
今度は、アキラの鼓動まで速くなっていた。




