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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

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守るための爪

 ミリアの身体が、闇を裂く。


 一瞬だった。


 黒服の男が反応する。


 遅い。


 振り向いた時には、もう近い。


 ミリアの拳が入る。


 深く。


 喉。


 呼吸が止まる。


 そのまま身体を掴み、床へ叩きつける。


 鈍い音。


 男は動かない。


 もう一人が端末を落とす。


「侵入――」


 最後まで言わせない。


 横。


 タケトシが入る。


 短く。


 正確に。


 男の腕を払う。


 端末が床を滑る。


 ミリアは止まらない。


 距離を詰める。


 男がナイフを抜く。


 速い。


 だが、迷いがある。


 ミリアは踏み込む。


 内側へ。


 刃を逸らす。


 肘。


 男の身体が揺れる。


 続けて膝。


 崩れる。


 終わりだった。


 静寂。


 短い戦闘だった。


 ミリアはすぐ奥を見る。


 倒れている子供。


 全部で五人。


 呼吸はある。


 だが、意識が薄い。


「薬か」


 タケトシが箱を見る。


 中には注射器。


 小瓶。


 番号の書かれた紙。


 研究施設みたいだった。


 ミリアは子供の近くにしゃがむ。


 小さい。


 軽い。


 抱き上げても、ほとんど重さがない。


 その時。


 小さな咳。


 女の子だった。


 ぼんやり目を開ける。


 焦点が合わない。


 でも。


 ミリアを見る。


「……だれ」


 掠れた声。


 ミリアは少しだけ黙る。


 答え方が分からない。


 でも。


「……助けに来た」


 短く言う。


 女の子は数秒、ミリアを見ていた。


 それから。


 力の抜けた手で、服を掴む。


 ミリアは動かない。


 振り払わない。


 ただ、その小さな力を感じている。


 胸の奥が重い。


 苦しい。


 でも、嫌じゃない。


 タケトシが倉庫の奥を見る。


「まだあるな」


 低い声。


 鉄扉。


 地下へ続く階段。


 冷たい空気が流れている。


 ミリアの視線も向く。


 羽音。


 下から聞こえる。


 多い。


 嫌な音だった。


「……いる」


 タケトシは頷く。


「ああ。

 しかも、かなりな」


 その時。


 床に落ちていた端末が光る。


 着信。


 画面には番号だけが表示されていた。


 タケトシが拾う。


 数秒だけ迷う。


 それから、出た。


 雑音。


 羽音みたいなノイズ。


 その奥から、声が聞こえる。


『――予定より早いな』


 男の声。


 知らない。


 だが、冷たい。


『回収班が落ちたか』


 タケトシは答えない。


 相手も気にしていなかった。


『まあいい。

 もう下まで来ている』


 ミリアの目が細くなる。


 下。


 地下。


『実験体は処分するな』


 その言葉で、空気が変わる。


 実験体。


 タケトシの声が低くなる。


「子供をそう呼ぶのか」


 短い沈黙。


 それから。


 相手は少し笑った。


『壊れるまでは価値がある』


 ミリアの呼吸が止まる。


 聞いたことがある。


 似ている。


 サク。


 胸の奥が冷たくなる。


『――来るなら来い』


 通信が切れる。


 静寂。


 羽音だけが残る。


 ミリアは地下を見る。


 暗い。


 深い。


 嫌な匂いがする。


 でも。


 視線は逸らさなかった。


 腕の中の子供が、小さく震える。


 ミリアはその身体を支える。


 優しく。


 落とさないように。


「……助ける」


 小さく言う。


 誰に向けた言葉か、自分でも分からない。


 でも。


 今度は。


 絶対に見捨てなかった。

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