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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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静かな朝

 朝の光が、薄く部屋に差し込んでいた。


 静かだった。


 昨夜までの音が、嘘みたいに。


 ミリアは窓際に立ったまま、外を見ている。


 街は動いていた。


 人が歩く。


 車が走る。


 昨日と同じように。


 何も知らないまま。


「……起きてたのか」


 後ろから声がした。


 タケトシだった。


 まだ少し重い足取りで、部屋に入ってくる。


 ミリアは振り返らない。


「寝てない」


 短く答える。


 タケトシは苦笑する。


「そういうと思った」


 机の上に紙袋を置く。


 薬。


 包帯。


 簡単な食べ物。


 昨夜のままでは動けない。


 だから、最低限を揃えてきた。


 ミリアは袋を見る。


「……怪我」


「ある」


 隠さない。


「お前もな」


 ミリアは自分の腕を見る。


 裂けた服。


 赤く残った痕。


 痛みはある。


 だが、動ける。


 問題ない。


「無茶しすぎだ」


 タケトシが椅子に座る。


 疲れは残っている。


 それでも、声はいつも通りだった。


 ミリアは少し黙る。


 それから。


「……止まれなかった」


 静かな声。


 言い訳ではない。


 ただ、事実だった。


 タケトシは少しだけ目を細める。


「まあ、お前らしい」


 責めない。


 否定もしない。


 それだけだった。


 部屋に沈黙が落ちる。


 重くはない。


 前とは違う。


 ミリアは窓の外を見る。


 昨夜のことを思い出す。


 届かなかった距離。


 サクの言葉。


 灰鐘。


 全部、まだ残っている。


 だが。


 前より整理できていた。


「……また来る」


 小さく言う。


 タケトシは頷く。


「ああ」


 短い返事。


「確実にな」


 ミリアは視線を落とす。


 怖くはない。


 ただ、考える。


 次はどう動くか。


 どう届くか。


 その時。


 机の上で端末が鳴った。


 短い通知音。


 タケトシが視線を向ける。


「もう仕事かよ……」


 疲れた声で言いながら、端末を開く。


 数秒。


 表情が少し変わる。


「……妙だな」


 ミリアが見る。


「なに」


 タケトシは画面を見たまま答える。


「保護依頼だ」


 短く。


「子供が消えてる」


 部屋の空気が少し変わる。


 ミリアの視線が止まる。


 タケトシは続きを読む。


「路地裏で暮らしてた孤児らしい」


 街の外れ。


 小さな集団。


 最近、何人か消えている。


 痕跡がない。


 警察もまともに動いていない。


 よくある話だった。


 本来なら。


 だが。


 ミリアの中に、小さく引っかかるものがあった。


「……子供」


 小さく呟く。


 タケトシが視線を上げる。


「気になるか」


 ミリアは少しだけ黙る。


 理由は分からない。


 でも。


 無視できなかった。


「……行く」


 短く言う。


 タケトシは数秒だけミリアを見ていた。


 それから、小さく笑う。


「そう言うと思った」


 ミリアは何も返さない。


 ただ、窓の外を見る。


 朝の光。


 動き始める街。


 そのどこかで。


 また誰かが消えている。


 ミリアは静かに目を細める。


 知らないままでは、いられなかった。

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