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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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壊れる前に

 サクの気配が消えても。


 その場の空気は、まだ重かった。


 灰鐘の男は動かない。


 視線だけが、ミリアを見ている。


 先ほどまでとは違う。


 測る目ではない。


 確認する目だった。


 ミリアも動かない。


 構えは崩さない。


 タケトシが、わずかに前へ出る。


 庇うように。


 男はそれを見て、小さく息を吐いた。


「……優先権は、あちらにある」


 低い声だった。


 感情はない。


 ただ、事実を置くように。


「対象の判断。

 接触。

 回収の可否」


 短く続ける。


「灰鐘でも、覆せない」


 ミリアは黙って聞く。


 サクの立ち位置。


 あれが特別だということ。


 ようやく形になる。


 男は視線を外さない。


「壊すな、という命令も同じだ」


 短い沈黙。


「……珍しい」


 ぽつりと言う。


「普通なら、もっと早く処理される」


 ミリアは小さく目を細める。


「……なんで」


 短い問い。


 男は少しだけ考える。


 それから。


「気に入られている」


 あまりにも簡単に言った。


 ミリアの表情は変わらない。


 だが、空気がわずかに揺れる。


「壊れる前が、一番価値がある」


 男は続ける。


「そう判断された」


 静かだった。


 だからこそ重い。


 ミリアは何も言わない。


 言葉にしなくても分かる。


 あの視線。


 あの距離。


 あの言葉。


 全部、繋がる。


 タケトシの声が低くなる。


「趣味の悪い話だな」


 男は否定しない。


「否定はしない」


 それだけだった。


 沈黙。


 短い。


 だが、十分だった。


 そして。


 男は一歩、下がる。


「今回はここまでだ」


 構えを解く。


 完全ではない。


 だが、戦う姿勢ではない。


「回収は次だ」


 ミリアは視線を逸らさない。


「逃げるのか」


 短く言う。


 男はわずかに首を振る。


「違う」


 感情のない声。


「必要な確認は終わった」


 それだけ。


 負けを認めるでもなく。


 勝ちを譲るでもなく。


 ただ、次へ進むために。


 合理的だった。


 男は通信機を拾う。


 壊れた仲間を見ることもない。


「次は、もっと厳しい」


 それだけ残して。


 去っていく。


 静寂。


 本当に、ようやく。


 戦いが終わった。


 ミリアはその場に立ったまま、息を吐く。


 深く。


 長く。


 身体の奥に残っていた緊張が、少しだけ抜ける。


 タケトシが壁にもたれる。


「……ひとまず、生きたな」


 少しだけ疲れた声。


 ミリアは隣を見る。


「……怪我」


 短く言う。


 タケトシは肩をすくめる。


「大丈夫、とは言わない」


 正直だった。


「でも、まだ動ける」


 ミリアは小さく頷く。


 それでいい。


 今は。


 視線を上げる。


 夜はまだ深い。


 終わったわけじゃない。


 むしろ。


 ここからだ。


 サク。


 灰鐘。


 自分。


 全部。


 まだ途中にいる。


「……次」


 小さく言う。


 タケトシが見る。


 ミリアは前を見たまま。


「届く」


 短い。


 だが、迷いはなかった。


 前より近かった。


 なら、次は。


 もっと。


 タケトシは少しだけ笑う。


「そういう顔、できるようになったな」


 ミリアは答えない。


 ただ、歩き出す。


 止まらない。


 もう、知っている。


 足りないなら。


 進むしかない。


 その先にしか、答えはない。


 夜の向こうへ。


 二人の影が、静かに伸びていった。

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