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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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小さな手

 街の外れは、昼でも薄暗かった。


 古い建物。


 狭い路地。


 積まれたゴミ袋。


 湿った匂い。


 人はいる。


 だが、見ない。


 見えないふりをしている。


 タケトシは端末を閉じながら歩く。


「この辺りらしい」


 短く言う。


 ミリアは周囲を見る。


 気配。


 視線。


 逃げる音。


 隠れる気配もある。


 慣れている。


 こういう場所にいる人間の動き。


「警察は?」


「動いてる形だけだな」


 タケトシが肩をすくめる。


「証拠なし。

 目撃者なし。

 優先度も低い」


 吐き捨てるようだった。


 ミリアは何も言わない。


 ただ、前を見る。


 その時。


 路地の奥で、小さな影が動いた。


 一瞬。


 すぐに隠れる。


 ミリアの足が止まる。


 視線だけ向ける。


「……いた」


 タケトシも止まる。


「気づかれてるな」


 逃げる気配。


 だが、遅い。


 完全には逃げない。


 迷っている。


 ミリアはゆっくり歩く。


 音を立てない。


 追い詰める動きじゃない。


 近づくだけ。


 路地の奥。


 小さな子供がいた。


 男の子。


 痩せている。


 服も汚れていた。


 年齢は八歳くらい。


 壁に背を押しつけたまま、こちらを見ている。


 逃げる準備をしている目だった。


 ミリアは立ち止まる。


 何も言わない。


 子供も動かない。


 沈黙。


 短い。


 でも、長かった。


「……お前、ここにいた子か?」


 タケトシが静かに聞く。


 子供は答えない。


 視線だけが揺れる。


 警戒している。


 当然だった。


 ミリアは子供を見る。


 細い腕。


 痩せた顔。


 怯えた目。


 その全部が、少しだけ昔を触った。


 島。


 血。


 飢え。


 眠れなかった夜。


 ミリアの指先が、わずかに動く。


 子供がびくりと肩を揺らす。


 その反応で、ミリアは動きを止めた。


 数秒。


 静かな時間が流れる。


 それから。


 ミリアは腰を下ろした。


 子供と視線の高さを合わせる。


 タケトシが少し驚いた顔をする。


 ミリアは見ていない。


「……いなくなったやつ、いるの」


 静かな声。


 短い。


 子供はすぐに答えない。


 だが。


 少しだけ目が揺れる。


「……二人」


 小さい声だった。


「急にいなくなった」


 ミリアは黙って聞く。


「大人は、知らないって」


 子供が視線を落とす。


「でも、夜に変な車が来てた」


 タケトシの目が細くなる。


「車?」


 子供は小さく頷く。


「黒いの」


 ミリアの中で、何かが繋がる。


 灰鐘。


 昨夜の車。


 偶然じゃない。


 そう分かる。


 子供がミリアを見る。


 まだ怖がっている。


 でも、少しだけ違う。


「……あんたたち、誰」


 タケトシが口を開きかける。


 だが、その前に。


「助ける」


 ミリアが言った。


 短く。


 真っ直ぐに。


 子供が目を開く。


 ミリアは続けない。


 それ以上、上手く言えない。


 でも。


 嘘じゃなかった。


 子供はしばらくミリアを見ていた。


 それから。


 小さく頷く。


 ほんの少しだけ。


 警戒が緩む。


 ミリアはその変化を見る。


 分かる。


 少しだけ。


 前なら、こんな顔はされなかった。


 タケトシが静かに息を吐く。


 何も言わない。


 ただ、ミリアを見ていた。


 路地の奥。


 風が吹く。


 湿った空気の中で。


 ミリアは小さな手を見ていた。


 細くて。


 弱くて。


 簡単に消えそうな手。


 それを見て。


 初めて。


 守りたいと思った。

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