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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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崩れる順番

 最初に聞こえたのは、足音ではなかった。


 金属を踏む、乾いた音。


 一定の間隔。


 迷いがない。


 来る。


 ミリアは倉庫の影に立ったまま、動かない。


 呼吸は静かだった。


 視線だけが、入口を見ている。


 隣で、タケトシも息を殺していた。


 気配は二つ。


 だが、視線は別へ向けさせる。


 それが最初だった。


 影が入る。


 一人。


 中央。


 遅れて、左右。


 三人。


 予定通りだった。


 動きは揃っている。


 隙はない。


 だからこそ、崩せる。


 先頭の男が足を止める。


 視線が動く。


 音を探している。


 タケトシが奥で、小さく鉄を鳴らす。


 反応。


 わずかに右へ逸れる。


 それで十分だった。


 ミリアが動く。


 一瞬。


 距離を消す。


 横から入る。


 腕を取る。


 引く。


 崩す。


 一人目。


 後ろが動く。


 速い。


 だが、想定の中。


 ミリアは離れない。


 近いまま。


 次の動きを殺す。


 膝を入れる。


 呼吸が止まる。


 そのまま壁へ叩きつける。


 音が響く。


 狭い。


 連携が遅れる。


 左が入る。


 ミリアは踏み替える。


 位置をずらす。


 二人の軌道を重ねる。


 ぶつかる。


 一瞬。


 乱れる。


 その隙。


 タケトシが横から入る。


 正確に。


 短く。


 止める。


 完全ではない。


 だが、それでいい。


 ミリアが前に出る。


 拳。


 深く。


 今度は、止まった。


 初めて。


 確かな手応え。


 男の身体が崩れる。


 二人目。


 残り、一人。


 空気が変わる。


 静かだった。


 怒りではない。


 冷たい。


 判断の速さ。


 最後の一人が下がる。


 距離を取る。


 見ている。


 測っている。


 ミリアも止まる。


 追わない。


 焦らない。


 ここで崩れる方が負ける。


 呼吸。


 足。


 視線。


 全部を見る。


「成長したな」


 初めて、その男が口を開く。


 感情のない声。


 事実だけを置くように。


 ミリアは答えない。


 構えたまま。


「だが、それでも足りない」


 同時に動く。


 速い。


 今までで一番。


 重い。


 ミリアが受ける。


 衝撃。


 腕が痺れる。


 だが、下がらない。


 横。


 タケトシ。


 合わせる。


 その瞬間。


 男の視線が、わずかに逸れる。


 そこ。


 ミリアは踏み込む。


 内側へ。


 最短で。


 拳を打つ。


 届く。


 深い。


 確かに。


 男の呼吸が止まる。


 初めて。


 膝が揺れる。


 だが――


 完全には落ちない。


 強い。


 それでも。


 崩れた。


 その事実だけで十分だった。


 男は一歩、下がる。


 視線は変わらない。


 だが、理解している。


 最初とは違う。


「……なるほど」


 小さく言う。


 そして。


 通信機に手を伸ばす。


 タケトシの表情が変わる。


「まずい」


 短い。


 ミリアは迷わない。


 踏み込む。


 止める。


 だが、その瞬間。


 空気が変わる。


 全身が止まる。


 冷たい。


 重い。


 知っている。


 この感覚。


 屋上で。


 あの時。


 サク。


 男は、わずかに口元を緩めた。


「来たか」


 その一言。


 ミリアは視線を上げる。


 屋根の上。


 そこに、影が立っていた。


 静かに。


 楽しそうに。


 見下ろしている。


 戦いは、まだ終わらない。

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