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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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見る者の距離

 高い位置から、街を見下ろす。


 光はまばらだ。

 音も少ない。


 その中で、一つだけはっきりと分かる場所がある。


 さっきまで、少女がいた場所。


 もういない。


 移動している。


 速い。


 判断も悪くない。


「……逃げ方は、悪くない」


 小さく呟く。


 誰に聞かせるでもない声。


 興味は、まだ消えていない。


 むしろ、強くなっている。


 簡単には壊れない。


 それがいい。


 壊れる瞬間が、はっきりする。


「でも、それだけじゃ足りない」


 静かに言う。


 風に流れるだけの声。


 届く相手はいない。


 ただ、確かめている。


 どこまで行けるか。

 どこで止まるか。


 その境界を。


 視線を動かす。


 遠く。


 路地の奥。


 見えている。


 ――いや。


 追えている。


 気配ではない。


 流れだ。


 動きの癖。

 選び方。


 そこから先を読む。


「いいな」


 小さく笑う。


 あれは、面白い。


 壊れ方を選ぶ。


 残し方を選ぶ。


 どちらでもない。


 どちらにもなれる。


「……ミリア」


 名前を口にする。


 軽く。


 確かめるように。


 音の響きを確かめるように。


「お前は、どっちに行く」


 問いかける。


 答えは求めない。


 まだ早い。


 選ぶのは、これからだ。


 足を一歩、前に出す。


 だが、追わない。


 距離を詰めない。


 今はまだ、触れない。


 その方がよく分かる。


 壊れる時の音が。

 残る時の形が。


 そのどちらも。


 価値がある。


 視線を落とす。


 街の端。


 車の動き。


 灰鐘の連中が動いている。


 速い。


 だが、足りない。


「まあ、いい」


 興味はある。


 だが、それだけだ。


 あれはあれで役に立つ。


 削る。

 追い込む。

 形を歪める。


 その役目には、ちょうどいい。


「壊すなよ」


 誰に向けたものでもない。


 だが、確かな意図がある。


「まだ、途中なんだから」


 その言葉を残して。


 影は動く。


 音もなく。

 気配もなく。


 ただ、位置だけが変わる。


 次に見る場所へ。


 次に確かめるために。


 ミリアが選ぶ、その先を。

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