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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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灰鐘の名

 足音を抑えたまま、二人は路地を抜ける。


 速度は落とさない。

 だが、走らない。


 音を残さないために。


 角を一つ曲がったところで、タケトシが手を上げた。


 止まる。


 ミリアもすぐに足を止める。


 気配を探る。


 追ってきていない。


 少なくとも、すぐ後ろにはいない。


「……ここでいい」


 タケトシが低く言う。


 ミリアは頷く。


 短く、それだけで十分だった。


 タケトシは壁にもたれ、呼吸を整える。


 痛みを押し込めるように、静かに息を吐く。


 ミリアは周囲を見ている。


 入口。

 屋根。

 影。


 死角を確認する。


 問題はない。


 だが、長くは留まれない。


「さっきの連中」


 タケトシが口を開く。


「灰鐘だ」


 同じ言葉。


 だが、先ほどよりも重い。


 ミリアは視線を向ける。


「……なに」


 短く聞く。


 意味は知らない。


 だが、無関係ではない。


 それだけは分かる。


 タケトシは一度だけ目を閉じる。


 考えている。


 どこまで話すか。


「簡単に言えば、回収屋だ」


 短く言う。


「人も、情報も、物も。

 価値があるものは、全部拾う」


 ミリアは黙って聞く。


 表情は変わらない。


 だが、視線がわずかに揺れる。


「……さっきのは」


「先遣だな」


 即答だった。


「様子見。

 位置確認。

 抵抗の強さを見る」


 ミリアの中で繋がる。


 動き。

 連携。

 あの影。


 すべてが一つの流れにある。


「じゃあ……」


 言葉が途切れる。


 続きは分かっている。


 それでも、確かめるように。


「次は、増える」


 タケトシが言う。


 迷いなく。


 断定で。


 ミリアは小さく息を吐く。


 恐怖はない。


 ただ、整理する。


 数。

 位置。

 動き。


 勝てるかではない。


 どう動くか。


 それだけを考える。


 その時。


 足元で、小さな振動があった。


 ミリアの視線が落ちる。


 通信機。


 さっきの一人が持っていたもの。


 いつの間にか、ポケットに入っている。


 微かに震えている。


 着信。


 タケトシがそれを見る。


 数秒だけ迷う。


 そして、手に取る。


「出る」


 短く言う。


 ミリアは頷く。


 通信が開く。


 ノイズ。


 そして、声。


『確認した』


 低い声。


 感情がない。


『対象、想定以上』


 短い間。


 向こうも測っている。


『回収を優先する。

 排除は、その後だ』


 淡々と告げる。


 命令。


 決定事項。


 タケトシは何も答えない。


 だが、切らない。


『逃がすな』


 それだけが残る。


 通信が途切れる。


 沈黙。


 短い。


 だが、十分だった。


 ミリアは顔を上げる。


 理解する。


 狙われている。


 自分が。


 理由は分からない。


 だが、確かに。


「……来る」


 小さく言う。


 タケトシは頷く。


「来るな」


 同じ結論。


 同じ速さ。


 ミリアは通信機を見る。


 壊さない。


 捨てない。


 必要になる。


 そう判断している。


 そして、顔を上げる。


 闇の奥を見る。


 そこに、もう一つの気配を感じる。


 さっきのもの。


 まだ遠い。


 だが、確かにいる。


 見ている。


 ミリアは目を細める。


 理解する。


 これは終わりではない。


 始まったばかりだ。

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