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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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触れない距離

 屋上の縁に、影が立っていた。


 風は弱い。

 音もない。


 それでも、下の動きははっきりと分かる。


 少女と男が、離れていく。


 迷いのない足取り。

 さっきよりも速い。


 選んでいる。


 動きを。

 距離を。

 タイミングを。


「……変わるのが早い」


 小さく呟く。


 驚きはない。


 ただ、面白いと感じている。


 壊れ方を期待していた。


 だが違う。


 残し方を選んでいる。


 それが、余計に歪んで見える。


「いいな」


 短く言う。


 それだけで十分だった。


 指先を、わずかに動かす。


 合図。


 遠くで、エンジン音が強くなる。


 複数。


 速い。


 一直線に向かっている。


「試してみろ」


 誰に向けた言葉でもない。


 だが、確かに届く。


 影は動かない。


 追わない。


 距離を保つ。


 触れないまま、見続ける。


 それが一番、よく分かるからだ。


 どこで壊れるか。

 どこまで残るか。


 その境界が。


 影は、わずかに笑う。


 そして、消えた。


 同時刻。


 路地に入った瞬間、ミリアは足を止めた。


 音が変わる。


 壁に反響する音。


 逃げ場が狭くなる。


「……こっちじゃない」


 短く言う。


 タケトシがすぐに進路を変える。


 だが、遅い。


 ライトが差し込む。


 白い光が、視界を一瞬だけ奪う。


 エンジン音。


 急停止。


 ドアが開く音。


 複数。


 ミリアは目を細める。


 数を測る。


 四。


 ――いや。


 後ろにもいる。


 挟まれている。


「下がる」


 タケトシが低く言う。


 ミリアは動かない。


 前を見る。


 光の向こう。


 人影が並ぶ。


 同じ装備。

 同じ動き。


 だが、さっきの影とは違う。


 重い。


 鈍い。


 だが確実。


 ミリアは一歩、前に出る。


 タケトシの前へ。


 短く息を吐く。


「……来る」


 言い終わる前に、動く。


 前の一人が踏み込む。


 銃ではない。


 距離が近い。


 速い。


 だが、見える。


 ミリアの身体が沈む。


 懐に入る。


 腕を取る。


 力をかける。


 崩す。


 一人、落ちる。


 後ろが動く。


 左右から、同時に。


 ミリアは踏み替える。


 位置をずらす。


 二人の軌道が重なる。


 ぶつかる。


 崩れる。


 止まらない。


 次。


 残りが来る。


 連携。


 さっきより整っている。


 ミリアは測る。


 崩す順。


 最短。


 選ぶ。


 動く。


 連続。


 当てる。


 止める。


 落とす。


 呼吸は乱れない。


 焦らない。


 さっきと同じではない。


 選んでいる。


 守るために。


 最後の一人が下がる。


 迷いが見える。


 その一瞬。


 ミリアは踏み込む。


 距離を詰める。


 逃がさない。


 肩を打つ。


 崩れる。


 静寂が戻る。


 短い。


 だが、確かに終わった。


 ミリアは動かない。


 周囲を見る。


 次が来る。


 分かっている。


 タケトシが息を整える。


「……灰鐘だ」


 低く言う。


 確信の声。


 ミリアは視線を上げる。


 夜の奥。


 もう見えない。


 だが。


 見られている。


 その感覚だけが、消えない。


「……行く」


 短く言う。


 迷いはない。


 ここではない。


 次が来る前に。


 動く。


 それだけだった。

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