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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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残したもの

 夜は、静かだった。


 さっきまでの気配は、もうない。

 だが、完全に消えたとは思えなかった。


 ミリアはその場に立ったまま、動かない。


 呼吸だけが、ゆっくりと整っていく。


 身体の熱が、少しずつ引いていく。


 横で、布の擦れる音がした。


 タケトシが動く。


 壁に手をつきながら、ゆっくりと体勢を直している。


 無理をしているのは分かる。

 だが、止めない。


 ミリアは一歩だけ近づいた。


「……無理、しないで」


 短い言葉。


 それだけだった。


 タケトシはわずかに笑う。


「してないつもりだ」


 軽く返す。


 だが、その声は少し掠れている。


 ミリアはそれ以上言わない。


 ただ、近くに立つ。


 触れない距離。

 だが、離れもしない。


「さっきの」


 タケトシが言う。


「届いてたな」


 ミリアは少しだけ視線を落とす。


 手を見る。


 残っている感触。


 確かに当たった、あの感触。


「……うん」


 小さく答える。


 短いが、はっきりしている。


 タケトシは呼吸を整えながら続ける。


「十分だ」


 それだけだった。


 評価ではない。

 確認でもない。


 ただの事実としての言葉。


 ミリアは何も言わない。


 だが、その言葉は残る。


 静かに、胸の奥に沈む。


 その時。


 遠くで、微かな音がした。


 車の音。


 複数。


 速い。


 こちらに向かってくる。


 タケトシの表情が変わる。


「……来るな」


 低く呟く。


 ミリアも視線を上げる。


 闇の奥。


 今度は、はっきりと分かる。


 さっきの“あれ”ではない。


 別のもの。


 だが、繋がっている。


 同じ流れの中にある。


 子供が、小さく後ろへ下がる。


 ミリアは一瞬だけ視線を向ける。


 その目は、さっきと同じだった。


 見えている。


 もっと先を。


「……行こう」


 ミリアが言う。


 短く。


 迷いはない。


 タケトシは頷く。


「場所を変える」


 それだけ言って動き出す。


 ミリアは一度だけ後ろを見る。


 さっきまで影がいた場所。


 もう何もない。


 だが。


 確かに何かを残していった。


 ミリアは目を細める。


 理解する。


 これは偶然ではない。


 選ばれている。


 理由は分からない。


 それでも、確かに。


 ミリアは前を向く。


 歩き出す。


 もう迷わない。


 守ると決めた。


 そのために動く。


 それだけだった。

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