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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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視線の先

 ミリアは、動かなかった。


 視線だけを、闇の奥に向けたまま。


 何も見えない。


 それでも、何かがあると分かる。


 さっきまでのものとは違う。

 消えたわけではない。


 残っている。


 そう感じていた。


 ゆっくりと呼吸を整える。


 胸の奥に残る緊張を、押し込めるように。


 横で、タケトシが小さく息を吐いた。


「……まだか」


 低い声。


 ミリアは答えない。


 わずかに首を振る。


 終わっていない。


 それだけは、はっきりしている。


 子供が一歩だけ前に出た。


 音はほとんどしない。

 だが、その動きは確かに分かる。


 ミリアは視線を向ける。


 子供も、同じ方向を見ている。


 闇の奥。

 同じ場所。


「……見える?」


 小さく聞く。


 確かめるように。


 子供は答えない。


 だが、目は逸らさない。


 ゆっくりと、首が縦に動いた。


 肯定。


 ミリアの中で、何かが繋がる。


 自分と似ている。


 だが、少し違う。


 もっと遠くまで届いているような感覚。


 子供の唇が、わずかに動く。


 形だけが見える。


 ――あそこ。


 指は差さない。


 だが、視線が位置を示している。


 建物の影と影の、その隙間。


 ミリアは目を細める。


 呼吸を止める。


 集中する。


 一瞬だけ。


 輪郭のようなものが揺らいだ。


 すぐに消える。


 だが、確かにそこにあった。


 ミリアの足が動く。


 半歩、前へ。


 だが、それ以上は進まない。


 距離がある。


 今は届かない。


 無理に動けば、崩される。


 身体がそう判断していた。


「追うな」


 タケトシが低く言う。


 ミリアは頷く。


 すでに同じ結論だった。


 子供は動かない。


 ただ、見続けている。


 視線は揺れない。


 ミリアはもう一度だけ、闇を見る。


 何も見えない。


 だが、さっきとは違う。


 位置が分かった。


 それだけで十分だった。


「……また来る」


 小さく言う。


 予測ではない。


 確信に近い。


 タケトシは短く息を吐いた。


「なら、準備する」


 迷いなく動き出す。


 ミリアはその場に残る。


 動かない。


 視線だけを闇に向けたまま。


 消えたはずの場所。


 だが、そこにある。


 見えないまま、こちらを見ている何か。


 ミリアは、ゆっくりと目を閉じた。


 怖くはない。


 ただ、分かる。


 これは終わらない。


 ここから、続いていく。

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