見えない場所
警備が増えた。
廊下の角。
階段の前。
面会室へ続く通路。
昨日まではなかった人影が、そこに立っている。
職員たちの足音も増えていた。
建物全体が少しだけ張り詰めている。
ミリアは面会室へ向かった。
タケトシが隣を歩く。
ノアは少し後ろで端末を見ている。
面会室の前で。
タケトシが足を止めた。
「無茶はするな」
ミリアは小さく頷く。
扉を開ける。
ユナは机のそばに座っていた。
けれど。
今日は落ち着かない様子だった。
膝の上で手を握っている。
白くなるほど強く。
ミリアはいつもの場所に座る。
少し離れた距離。
ユナが顔を上げる。
「……人、増えた」
小さな声。
「うん」
ユナは少し黙る。
「何かあった?」
ミリアは考える。
嘘はつきたくない。
でも。
全部を話すこともできない。
「外を見てる」
短く答えた。
ユナは少しだけ眉を寄せる。
「私を?」
ミリアは頷かなかった。
首も振らなかった。
「まだ分からない」
その答えに。
ユナは俯く。
紙コップの水面が揺れている。
震える指先が触れているからだ。
「……見つかる?」
小さな声だった。
ミリアは答えられない。
分からないから。
だから。
「今は」
一度言葉を切る。
「ここにいる」
ユナは顔を上げる。
ミリアは視線を逸らさない。
それ以上は言わなかった。
ユナも聞かなかった。
廊下から足音が聞こえる。
ユナの肩が跳ねる。
ミリアは動かない。
近付かない。
ただ。
そこにいる。
しばらくして。
ユナはゆっくり息を吐いた。
「……そこにいて」
「うん」
静かな返事。
それだけで十分だった。
部屋はまた静かになる。
雨音だけが窓を叩いている。
ミリアは何気なく窓の外を見る。
灰色の空。
濡れた庭。
誰もいない。
それなのに。
ほんの一瞬だけ。
誰かの視線を感じた気がした。
振り返っても。
そこには誰もいなかった。




