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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

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視線

その日の夜。


 雨はまだ降っていた。


 窓を叩く音が、静かな廊下に響いている。


 面会は終わった。


 ユナも部屋へ戻っている。


 それでも。


 ミリアは眠る気になれなかった。


 胸の奥に、小さな違和感が残っている。


 誰かに見られている。


 そんな感覚。


 気のせいかもしれない。


 けれど。


 島で生き残った身体は。


 そういう違和感だけは、滅多に外さない。


 窓の外を見る。


 雨。


 街灯。


 濡れた庭。


 誰もいない。


 それでも。


 視線だけが残っているような気がした。


「眠れないか」


 タケトシだった。


 いつの間にか隣へ来ていた。


 ミリアは窓を見たまま答える。


「……いる」


 タケトシは表情を変えない。


「どこだ」


「分からない」


 短い返事。


 でも。


 迷いはなかった。


 タケトシは端末を取り出す。


「ノア」


 すぐにノアが来る。


「監視映像を見せて」


 三人は警備室へ向かった。


 画面には建物の外が映っている。


 正門。


 裏口。


 駐車場。


 庭。


 雨でぼやけた映像が並んでいた。


 ノアが時間を戻す。


 数分前。


 窓の外。


 何もない。


 さらに戻す。


 また何もない。


 そして。


 一瞬だけ。


 画面の端を何かが横切った。


 人影。


 そう見えた。


 だが。


 次の瞬間には消えていた。


 タケトシが目を細める。


「止めろ」


 ノアが映像を止める。


 拡大する。


 画質は粗い。


 輪郭もはっきりしない。


 それでも。


 人だった。


 ノアが低く呟く。


「監視カメラの死角を歩いてる」


 タケトシは黙る。


 偶然じゃない。


 そういう歩き方だった。


 ノアが別の映像へ切り替える。


 正門。


 裏口。


 非常口。


 どこにも映っていない。


 つまり。


 最初から死角だけを歩いていた。


 部屋が静かになる。


 タケトシが短く言う。


「警備を増やす」


 ノアが頷く。


「すぐ動かす」


 三人は警備室を出た。


 廊下は静かだった。


 雨音だけが響いている。


 面会室の前を通る。


 そこに立っているはずの警備員が。


 いなかった。


 タケトシが立ち止まる。


 ミリアも止まる。


 誰も言葉を発さない。


 雨だけが。


 静かに降り続いていた。

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