隣
次の日。
面会室は静かだった。
窓の外は相変わらず曇っている。
ミリアは扉を開ける。
部屋へ入る。
すると。
少しだけ違和感があった。
ユナが壁際にいない。
机の近くに座っている。
昨日より前。
一昨日より前。
ほんの少しだけ。
部屋の真ん中へ近付いていた。
ユナも気付く。
ミリアを見た。
そして。
少しだけ目を逸らした。
「来た」
小さな声。
ミリアは頷く。
「うん」
それだけだった。
ユナは視線を落とす。
机の上には水とパンがある。
パンはまだ残っていた。
でも。
昨日ほど強く握ってはいない。
ミリアは昨日と同じ場所に座る。
近すぎない距離。
遠すぎない距離。
ノアは部屋の隅で静かに見守っていた。
会話には入らない。
ただそこにいるだけだ。
ユナはしばらく黙っていた。
それから。
ぽつりと言う。
「……そこ」
言葉が止まる。
少し迷う。
「落ち着くの?」
ミリアは少し考える。
「分からない」
本当だった。
ただ落ち着く。
それだけ。
ユナは黙る。
指先が少し動く。
それから。
「……私も」
小さな声だった。
ミリアは少しだけ目を瞬く。
ユナは視線を逸らしている。
言うつもりはなかったみたいに。
沈黙。
でも。
悪い沈黙じゃない。
ユナは机の上の紙コップを見る。
それから。
ぽつりと呟く。
「寝ると」
声が小さい。
「見つかる気がする」
ミリアは黙る。
ユナは続ける。
「だから起きる」
掠れた声。
「ずっと」
ミリアは窓を見る。
曇った空。
そして。
静かに答えた。
「分かる」
ユナが顔を上げる。
驚いた顔。
本当に分かるとは思っていなかったみたいに。
ミリアはそれ以上説明しない。
ユナも聞かない。
それでも。
伝わった気がした。
少しだけ。
長い沈黙。
ユナは机を見ている。
何かを迷うように。
何かを考えるように。
やがて。
椅子を少し動かした。
小さな音。
ぎり、と。
ミリアは見る。
ユナは顔を赤くしていた。
ほんの少しだけ。
椅子が近付いている。
数十センチ。
それだけ。
それだけなのに。
ユナにとっては大きなことだった。
ミリアは何も言わない。
ありがとうも。
偉いとも。
言わない。
ただ。
そのままにしておく。
ユナはほっとしたようだった。
窓の外で風が吹く。
曇り空は変わらない。
部屋の中も静かだった。
けれど。
ユナはもう。
扉よりも。
ミリアのいる方を見ていた。




