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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

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次の日。


 面会室は静かだった。


 窓の外は相変わらず曇っている。


 ミリアは扉を開ける。


 部屋へ入る。


 すると。


 少しだけ違和感があった。


 ユナが壁際にいない。


 机の近くに座っている。


 昨日より前。


 一昨日より前。


 ほんの少しだけ。


 部屋の真ん中へ近付いていた。


 ユナも気付く。


 ミリアを見た。


 そして。


 少しだけ目を逸らした。


「来た」


 小さな声。


 ミリアは頷く。


「うん」


 それだけだった。


 ユナは視線を落とす。


 机の上には水とパンがある。


 パンはまだ残っていた。


 でも。


 昨日ほど強く握ってはいない。


 ミリアは昨日と同じ場所に座る。


 近すぎない距離。


 遠すぎない距離。


 ノアは部屋の隅で静かに見守っていた。


 会話には入らない。


 ただそこにいるだけだ。


 ユナはしばらく黙っていた。


 それから。


 ぽつりと言う。


「……そこ」


 言葉が止まる。


 少し迷う。


「落ち着くの?」


 ミリアは少し考える。


「分からない」


 本当だった。


 ただ落ち着く。


 それだけ。


 ユナは黙る。


 指先が少し動く。


 それから。


「……私も」


 小さな声だった。


 ミリアは少しだけ目を瞬く。


 ユナは視線を逸らしている。


 言うつもりはなかったみたいに。


 沈黙。


 でも。


 悪い沈黙じゃない。


 ユナは机の上の紙コップを見る。


 それから。


 ぽつりと呟く。


「寝ると」


 声が小さい。


「見つかる気がする」


 ミリアは黙る。


 ユナは続ける。


「だから起きる」


 掠れた声。


「ずっと」


 ミリアは窓を見る。


 曇った空。


 そして。


 静かに答えた。


「分かる」


 ユナが顔を上げる。


 驚いた顔。


 本当に分かるとは思っていなかったみたいに。


 ミリアはそれ以上説明しない。


 ユナも聞かない。


 それでも。


 伝わった気がした。


 少しだけ。


 長い沈黙。


 ユナは机を見ている。


 何かを迷うように。


 何かを考えるように。


 やがて。


 椅子を少し動かした。


 小さな音。


 ぎり、と。


 ミリアは見る。


 ユナは顔を赤くしていた。


 ほんの少しだけ。


 椅子が近付いている。


 数十センチ。


 それだけ。


 それだけなのに。


 ユナにとっては大きなことだった。


 ミリアは何も言わない。


 ありがとうも。


 偉いとも。


 言わない。


 ただ。


 そのままにしておく。


 ユナはほっとしたようだった。


 窓の外で風が吹く。


 曇り空は変わらない。


 部屋の中も静かだった。


 けれど。


 ユナはもう。


 扉よりも。


 ミリアのいる方を見ていた。

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