表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
125/131

開かない扉

翌日。


 ミリアは再び面会室へ向かった。


 廊下は静かだった。


 窓の外は曇っている。


 最近ずっと同じ空だ。


 扉の前にはノアがいた。


「来たね」


 ミリアは頷く。


「どう?」


 ノアは苦笑した。


「少しだけ食べるようにはなった」


「でも」


 言葉を切る。


「夜はほとんど眠ってないみたい」


 ミリアは黙る。


 ノアは続ける。


「物音がすると起きる」


「職員が近付くと身構える」


「扉の位置をずっと確認してる」


 ミリアは何も言わない。


 全部知っている。


 少し前までの自分もそうだったから。


 ノアが扉を開ける。


 部屋の中。


 ユナは昨日と同じ場所にいた。


 だが。


 机の上のパンはなくなっていた。


 ミリアはそれを見る。


 ユナも気付く。


 少しだけ目を逸らした。


「食べたんだ」


 ミリアが言う。


 ユナは黙る。


 数秒後。


 小さく頷いた。


 それだけだった。


 でも。


 昨日ならしなかった反応だ。


 ミリアは壁にもたれる。


 ユナも見ている。


 昨日より長く。


「また来た」


 ユナが言った。


「うん」


 ミリアが答える。


 沈黙。


 不思議と苦しくない。


 ユナは窓を見る。


 それから。


 ぽつりと言った。


「前にもいた」


 ミリアは顔を上げる。


 ユナは窓の外を見たまま。


「優しい人」


 小さな声。


「大丈夫って言った」


 指先が震える。


「もう平気だって」


 唇が少しだけ強張る。


「守るって言った」


 部屋の空気が重くなる。


 ユナは黙り込む。


 喉の奥で言葉が止まっているみたいだった。


 ミリアは待つ。


 急がせない。


 やがて。


 ユナが小さく呟く。


「いなくなった」


 ノアが目を伏せる。


 ユナも顔を上げない。


「みんな」


 掠れた声だった。


「いなくなる」


 静かな言葉。


 でも。


 重かった。


 ミリアは何も言わない。


 大丈夫とは言わない。


 いなくならないとも言わない。


 そんな約束はできない。


 だから。


 別のことを言った。


「今はいる」


 ユナが顔を上げる。


 ミリアは続ける。


「私は」


 短い言葉。


 それだけ。


 ユナは黙る。


 信じているわけじゃない。


 でも。


 否定もしなかった。


 しばらくして。


 小さな声が落ちる。


「……明日も?」


 ミリアは迷わない。


「来る」


 ユナは俯く。


 何も言わない。


 けれど。


 肩の力が少しだけ抜けた。


 窓の外では風が吹いている。


 曇り空は変わらない。


 それでも。


 ユナは初めて。


 "明日"を考えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ