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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

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少しだけ

面会室は静かだった。


 時計の針が進む音だけが聞こえる。


 ユナは机の上を見ている。


 ミリアも同じ場所にいた。


 少し離れて。


 何も言わずに。


 ノアは扉の近くで様子を見ている。


 誰も急かさない。


 誰も近づかない。


 それが今のユナには必要だった。


 しばらくして。


 ユナがぽつりと言った。


「……帰るの?」


 小さな声だった。


 ミリアは少し考える。


「まだ」


 短く答える。


 ユナは黙る。


 それだけで。


 少し安心したように見えた。


 ミリアは何も言わない。


 ユナも何も言わない。


 沈黙が続く。


 けれど。


 前みたいな重い沈黙ではなかった。


 ユナは机の端を見つめる。


 指先が小さく動く。


 何かを迷うように。


 何かを確かめるように。


「……ずっと」


 声が止まる。


 もう一度。


 息を吸う。


「一人だった」


 ノアが視線を上げる。


 ミリアは動かない。


 ユナは俯いたままだった。


「怖かった?」


 ミリアが聞く。


 ユナは答えない。


 長い沈黙。


 やがて。


 小さく頷いた。


 本当に小さく。


 ミリアはそれ以上聞かない。


 どれくらい一人だったのか。


 何があったのか。


 誰がいたのか。


 聞かない。


 今はまだ。


 話せるところまででいい。


 ユナは少しだけ顔を上げる。


「……なんで」


 掠れた声。


「聞かないの」


 ミリアは考える。


 少しだけ。


「言いたくなったら」


 そこで言葉を切る。


「その時でいい」


 ユナは黙る。


 何かを考えている。


 信じてはいない。


 でも。


 否定もしていない。


 窓の外では風が鳴っている。


 曇り空は変わらない。


 ユナは机の上を見る。


 それから。


 ミリアを見る。


 そして。


 ほんの少しだけ。


 迷うように口を開く。


「……また」


 声が小さい。


「また来る?」


 昨日なら聞かなかった。


 今日の朝でも聞かなかった。


 でも。


 今は聞いた。


 ミリアは頷く。


「来る」


 短い返事。


 ユナは黙る。


 何も言わない。


 けれど。


 握っていた手の力が少し抜けた。


 窓の外は曇っている。


 空はまだ明るくない。


 それでも。


 ユナは初めて。


 次があるかもしれないと思った。


 ほんの少しだけ。

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