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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

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同じ匂い

面会室は静かだった。


 時計の音だけが聞こえる。


 少女は壁際にいる。


 ミリアも動かない。


 少し離れた場所に立ったまま。


 ノアと職員は困っていた。


 何も進まないからだ。


 だが。


 ミリアは気にしていなかった。


 沈黙に慣れている。


 言葉がない時間にも。


 少女は時々こちらを見る。


 そして。


 目が合うと逸らす。


 それを何度か繰り返していた。


 窓の外では風が鳴っている。


 曇り空は変わらない。


 やがて。


 少女が小さく動いた。


 机の上を見る。


 食事を見る。


 それから。


 また視線を逸らす。


 ミリアは見ていた。


 お腹は空いている。


 でも食べない。


 そういう時期があった。


 信じられないから。


 何もかも。


 だから食べない。


 昔の自分もそうだった。


 しばらくして。


 ミリアは机へ視線を向けた。


 それから少女を見る。


「……食べないの?」


 少女の肩が跳ねた。


 警戒した目。


 だが。


 返事はない。


 ミリアは机へ近付く。


「……来ないで」


「うん」


 素直に止まる。


 そして。


 机の上のパンを手に取った。


 少女が睨む。


 職員も固まる。


 ミリアはそのまま。


 一口食べた。


 静かに。


 ゆっくりと。


 もう一口。


 それから。


 机へ戻した。


「大丈夫」


 短い言葉。


 少女は黙る。


 ノアが少し目を見開く。


 職員も同じだった。


 少女はパンを見る。


 ミリアを見る。


 またパンを見る。


 長い時間。


 迷うように。


 やがて。


 本当にゆっくりと立ち上がった。


 一歩。


 また一歩。


 机へ近付く。


 逃げられる距離は残したまま。


 パンを取る。


 匂いを嗅ぐ。


 見つめる。


 そして。


 一口だけ齧った。


 部屋の空気が少し変わる。


 職員が安堵の息を吐く。


 ノアも肩の力を抜く。


 少女は気付いていない。


 食べることに集中している。


 少しだけ。


 必死だった。


 ミリアは見ていた。


 何も言わず。


 ただ見ていた。


 少女は半分ほど食べて。


 ようやく顔を上げる。


 目が合う。


 今度は逸らさなかった。


 長い沈黙。


 そして。


 少女が初めて聞いた。


「……なんで」


 掠れた声。


「なんでいるの」


 ミリアは少し考える。


 難しい質問だった。


 上手く説明できない。


 だから。


 正直に答える。


「分からない」


 少女が眉をひそめる。


 ミリアは続けた。


「でも」


 少しだけ考える。


「一人だったから」


 少女が固まる。


 部屋も静かになる。


 ミリアはそれ以上言わない。


 少女はパンを握りしめる。


 何かを考えるように。


 じっと。


 長い時間。


 そして。


 ほんの少しだけ。


 その目から棘が抜けた。


 窓の外では風が吹いている。


 曇り空はまだ晴れない。


 それでも。


 少女の視線だけは。


 もうミリアから離れなかった。

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