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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

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帰り道

車が走っている。


 夜の高速道路。


 窓の外には灯りが流れていた。


 静かだった。


 後部座席にはミリア。


 隣にはタケトシ。


 珍しく。


 どちらも喋らない。


 任務の後はいつもそうだった。


 だが。


 今日は少し違う。


 ミリアは窓の外を見ていた。


 流れていく光。


 黒い空。


 時折。


 サクの顔が浮かぶ。


『全部は守れないよ』


 静かな声。


 優しい声。


 残酷な声。


 ミリアは目を閉じる。


 胸の奥が少し重い。


 守れた。


 確かに守れた。


 でも。


 サクの言葉も消えない。


 全部は守れない。


 それもきっと本当だった。


「考え込んでんな」


 タケトシだった。


 ミリアが顔を上げる。


 前を見たまま。


 小さく笑っている。


「顔に出てるぞ」


 ミリアは少しだけ視線を逸らした。


 そんなつもりはなかった。


 タケトシは続ける。


「気にすんな」


 短い言葉。


「全部守れる奴なんかいねえ」


 ミリアは黙る。


 サクも似たことを言った。


 でも。


 何かが違う。


 タケトシは少し考えて。


 それから言う。


「だから守らなくていいって話じゃねえけどな」


 ミリアの目が少しだけ動く。


 タケトシは窓の外を見る。


「助けられなかったことは忘れねえ」


「でも」


 一度言葉を切る。


「助けられたことも忘れるな」


 車内が静かになる。


 ミリアは何も言えない。


 思い出す。


 小さな手。


 ありがとう。


 笑顔。


 温かかった。


 生きていた。


 守れた。


 胸の奥が少しだけ揺れる。


 タケトシはそれ以上言わない。


 いつもそうだった。


 必要以上には踏み込まない。


 だから。


 ミリアも安心できた。


 車は走る。


 夜の中を。


 長い時間。


 誰も喋らなかった。


 やがて。


 街の灯りが増えていく。


 拠点が近い。


 窓に映る自分を見る。


 少し疲れている。


 少し傷だらけだ。


 でも。


 ほんの少しだけ。


 前とは違う顔をしていた。


 ミリアは窓から目を離す。


 そして。


 静かに目を閉じた。


 タケトシの言葉を。


 胸の奥で繰り返しながら。


『助けられたことも忘れるな』


 車は夜の道を走り続ける。


 拠点へ向かって。

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