表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
118/131

ありがとうの重さ

地下施設を出る頃には。


 警報も止まっていた。


 夜風が吹く。


 冷たい空気だった。


 ミリアは歩いている。


 子供たちの後ろを。


 ゆっくり。


 身体が重い。


 背中も痛い。


 でも。


 不思議と足は止まらなかった。


 子供たちは保護車両へ案内されている。


 泣いている子もいる。


 安心したように眠っている子もいる。


 ミリアは少し離れた場所から見ていた。


 近づき方が分からない。


 昔からそうだった。


 誰かの輪の中へ入るのは苦手だった。


「お姉ちゃん」


 声がした。


 振り向く。


 あの女の子だった。


 小さな足で駆け寄ってくる。


 ミリアは固まる。


 どうすればいいのか分からない。


 女の子は立ち止まる。


 少しだけ息を切らしながら。


 それでも笑った。


「助けてくれてありがとう」


 まっすぐな言葉だった。


 嘘もない。


 飾りもない。


 ただ。


 ありがとうだけだった。


 ミリアは答えられない。


 言葉が見つからない。


 胸の奥が少しだけ苦しい。


 女の子は首を傾げる。


「どうしたの?」


 ミリアは小さく口を開く。


 でも。


 何も出てこない。


 女の子は少し考えて。


 それから。


 優しく笑った。


「また会える?」


 ミリアは目を瞬く。


 分からない。


 本当に。


 分からなかった。


 だから。


 正直に答える。


「……分からない」


 女の子は小さく笑う。


「そっか」


 残念そうではなかった。


「でも」


 小さな手が伸びる。


 ミリアの指先に触れる。


「会えたらうれしい」


 温かかった。


 ミリアはその手を見る。


 少しだけ。


 本当に少しだけ。


 昔を思い出す。


 届かなかった手。


 冷たくなった手。


 離れていった手。


 でも。


 今触れている手は違う。


 温かい。


 生きている。


 ミリアはゆっくり息を吐く。


 そして。


 ぎこちなく。


 本当にぎこちなく。


 小さく頷いた。


 女の子が笑う。


 それだけで。


 胸の奥が少し温かくなった。


「ミリア」


 タケトシの声だった。


 振り向く。


 車の横に立っている。


「行くぞ」


 短い言葉。


 いつも通り。


 ミリアは頷く。


 歩き出す。


 数歩進んで。


 ふと振り返る。


 女の子が手を振っていた。


 満面の笑みで。


 ミリアは立ち止まる。


 少しだけ迷う。


 それから。


 ぎこちなく手を上げた。


 本当に少しだけ。


 女の子が嬉しそうに笑う。


 その笑顔を見て。


 ミリアは思う。


 まだ分からない。


 人のことも。


 自分のことも。


 生きる理由も。


 でも。


 前より。


 少しだけ。


 前を向ける気がした。


 夜風が吹く。


 ミリアは前を向く。


 そして。


 タケトシの待つ車へ歩いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ