届いた手
瓦礫が落ちる。
轟音。
悲鳴。
警報。
全部が混ざる。
ミリアは迷わない。
床を蹴る。
全力で。
崩落へ飛び込む。
天井が割れる。
コンクリートの塊が落ちてくる。
子供たちは動けない。
怯えている。
逃げることすらできない。
あの日と同じだった。
泣き声。
助けを求める目。
伸ばされた手。
届かなかった声。
違う。
今回は違う。
ミリアは飛び込む。
一人。
抱える。
押す。
「走って」
短い声。
子供が涙を浮かべる。
でも。
動く。
次。
また一人。
また一人。
瓦礫が落ちる。
肩を掠める。
痛い。
だが。
止まらない。
タケトシも動いていた。
「こっちだ!」
怒鳴る。
子供たちを誘導する。
兵士たちですら。
一瞬だけ動きを止めていた。
目の前の光景を見て。
言葉を失っている。
サクだけが違った。
崩れる天井の下。
静かに立っている。
そして。
見ていた。
ミリアを。
ずっと。
ミリアは最後の子供へ手を伸ばす。
小さな男の子だった。
震えている。
泣いている。
島で見た。
何度も見た顔。
男の子が手を伸ばす。
ミリアも伸ばす。
指先が触れる。
その瞬間。
巨大な瓦礫が落ちた。
間に合わない。
男の子の目が見開く。
ミリアは考えない。
身体が先に動く。
抱き寄せる。
覆い被さる。
轟音。
衝撃。
背中に激痛が走る。
息が止まる。
視界が揺れる。
でも。
腕は離さない。
男の子は生きている。
泣いている。
温かい。
生きている。
ミリアは小さく息を吐く。
その時。
周囲が静かになった。
崩落が止まる。
警報だけが鳴っている。
ミリアはゆっくり顔を上げる。
タケトシがいた。
子供たちもいる。
怯えている。
泣いている。
でも。
生きている。
ミリアの目が少しだけ揺れる。
その時だった。
「届いたね」
静かな声。
サクだった。
瓦礫の向こう。
赤い光の中に立っている。
笑っていた。
穏やかに。
どこか満足そうに。
ミリアは男の子を離さない。
サクはその姿を見る。
長い時間。
黙って。
それから。
少しだけ目を細めた。
「昔は届かなかった」
羽音が響く。
島の記憶が蘇る。
冷たい手。
泣き声。
死体の山。
サクは静かに続ける。
「でも、今は届いた」
ミリアは何も言わない。
言葉が出ない。
サクは笑う。
嬉しそうに。
寂しそうに。
どうしようもなく。
「やっぱり」
小さな声。
「綺麗だ」
その言葉だけが。
静かに響いた。




