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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

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証明の先

殺気が満ちる。


 空気が重くなる。


 警報すら遠かった。


 サクだけがいる。


 目の前に。


 静かに。


 笑いながら。


 ミリアは子供の手を離す。


 ゆっくり。


 震えないように。


 後ろへ押す。


 女の子が不安そうに見上げる。


 ミリアは振り返らない。


 代わりに。


 小さく頷いた。


 それだけで十分だった。


 タケトシが前へ出る。


「ガキどもを連れて下がれ」


 兵士たちを睨む。


 銃口は下げない。


 サクは肩を竦めた。


「優しいね」


「嫌いじゃないよ」


「気持ち悪ぃな」


 タケトシが吐き捨てる。


 サクは少し笑った。


 でも。


 視線はミリアから離れない。


 羽音が響く。


 赤い光が流れる。


 そして。


 サクが消えた。


 速い。


 今までで一番。


 ミリアは踏み込む。


 考えない。


 迷わない。


 本能のまま。


 拳がぶつかる。


 衝撃。


 空気が震える。


 床が軋む。


 互いに後退する。


 ほんの半歩だけ。


 サクが笑う。


「そう」


 嬉しそうだった。


「それだよ」


 再び消える。


 右。


 違う。


 左。


 違う。


 上。


 来る。


 ミリアが身体を捻る。


 蹴りが頬を掠める。


 熱い。


 だが。


 止まらない。


 掴む。


 腕。


 サクの目が少しだけ見開く。


 投げる。


 床へ叩きつける。


 轟音。


 コンクリートが割れる。


 兵士たちが息を呑む。


 タケトシも目を細める。


 初めてだった。


 ミリアが。


 サクに綺麗な一撃を入れた。


 だが。


 サクは笑っていた。


 床に倒れたまま。


 楽しそうに。


 本当に。


 心の底から。


「やっぱり」


 ゆっくり立ち上がる。


「君はすごい」


 ミリアは構える。


 息が荒い。


 身体も痛い。


 それでも。


 目は逸らさない。


 サクは服の埃を払う。


 まるで。


 散歩の途中みたいに。


「でもね」


 静かな声。


 ミリアの背筋が冷える。


 空気が変わる。


 嫌な予感。


 島で何度も感じたもの。


 生き残った者だけが知る感覚。


 サクが笑う。


 今までで一番。


 穏やかに。


「まだ足りない」


 その瞬間。


 天井が軋んだ。


 嫌な音。


 戦闘で傷んでいた区画が悲鳴を上げる。


 亀裂が走る。


 壁。


 床。


 天井。


 一気だった。


 轟音。


 研究施設全体が揺れる。


 天井から破片が落ちる。


 悲鳴。


 警報。


 赤い光。


 全部が混ざる。


 ミリアの目が見開く。


 子供たちのいる方角。


 崩れる。


 間に合わない。


 サクは見ている。


 静かに。


 試すように。


 あの日と同じ目で。


 ミリアは床を蹴る。


 迷いなく。


 サクではなく。


 崩落へ向かって。


 その瞬間。


 サクが少しだけ笑った。


 嬉しそうに。


 寂しそうに。


 救われたみたいに。


 そして。


 ミリアは落ちてくる瓦礫へ飛び込んだ。

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