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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

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掴んだ手

震える小さな手を掴んだ。


 温かかった。


 小さい。


 弱い。


 でも。


 確かに生きている。


 ミリアはその手を引く。


 自分の後ろへ。


 守るように。


 サクが立っている。


 目の前に。


 数歩先。


 静かな目だった。


 怒っていない。


 悔しそうでもない。


 ただ。


 じっと見ている。


 ミリアを。


 その手を。


 そして。


 少しだけ笑った。


「間に合ったね」


 穏やかな声。


 まるで。


 自分のことみたいに。


 ミリアは答えない。


 子供を庇ったまま構える。


 呼吸は荒い。


 身体も痛い。


 でも。


 離さない。


 サクの視線が下りる。


 二人の手を見る。


「そういう顔」


 小さく呟く。


「初めて見た」


 ミリアは眉をひそめる。


 意味が分からない。


 サクは続ける。


「昔の君は」


 静かな声。


「誰にも触らなかった」


 羽音が響く。


 島の日々。


 血。


 死体。


 空腹。


 泣き声。


 あの頃の自分。


 確かに。


 誰も信じていなかった。


 誰も守れなかった。


 生きるだけで精一杯だった。


 サクが少し笑う。


「やっぱり変わった」


 嬉しそうだった。


 本当に。


 心の底から。


 嬉しそうに。


 タケトシが銃を構える。


「喜んでる場合かよ」


 サクが肩を竦める。


「喜ぶよ」


 当たり前みたいに。


「だって、見たかったから」


 ミリアの胸がざわつく。


 サクの言葉は分からない。


 でも。


 嘘じゃない。


 それだけは分かった。


 サクはゆっくり歩く。


 一歩。


 また一歩。


 近づいてくる。


 兵士たちも動かない。


 誰も割り込めない。


 ここだけ。


 別の世界みたいだった。


「ねえ」


 サクが言う。


「守れた気分?」


 ミリアの手に力が入る。


 サクは笑う。


「それ、一人だけだよ」


 静かな声。


 残酷な声。


「島では守れなかった」


「今までだって守れなかった」


「これからも全部は守れない」


 ミリアは歯を食いしばる。


 胸の傷を抉る言葉だった。


 だが。


 否定できない。


 全部事実だから。


 サクは優しく続ける。


「だから苦しいんだ」


「だから捨てた方が楽なんだ」


 羽音が大きくなる。


 あの日の声。


 死体の山。


 泣き叫ぶ子供たち。


 冷たい手。


 届かなかった声。


 全部が蘇る。


 でも。


 ミリアは手を離さない。


 後ろの子供が。


 服を掴んでいる。


 震えながら。


 必死に。


 生きようとしている。


 ミリアはゆっくり息を吐く。


「……そうかも」


 小さな声。


 サクが目を細める。


 ミリアは視線を逸らさない。


「でも」


 言葉が続かない。


 上手く説明できない。


 それでも。


 小さく首を振る。


「……違う」


 短い声だった。


 それだけだった。


 でも。


 サクには伝わった。


 数秒。


 沈黙。


 警報だけが鳴る。


 そして。


 サクは小さく笑った。


 寂しそうに。


 嬉しそうに。


 どちらともつかない顔で。


「そっか」


 羽音が響く。


 赤い光が流れる。


 サクはゆっくり構えた。


「じゃあ」


 静かな声。


「もっと証明して」


 その瞬間。


 今までで最も濃い殺気が。


 地下施設を満たした。

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