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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

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帰る場所

床が爆ぜる。


 コンクリートが砕け散る。


 サクの姿が消える。


 速い。


 視界が追いつかない。


 ミリアは反射で身体を捻る。


 衝撃。


 頬を何かが掠めた。


 熱い。


 血。


 遅れて痛みが来る。


 サクはもう後ろにいた。


「避けた」


 少し嬉しそうだった。


 ミリアは振り向く。


 拳。


 サクは受ける。


 だが。


 受けただけだった。


 微動だにしない。


 そのまま肩を掴まれる。


 嫌な感覚。


 投げられる。


 身体が宙を舞う。


 壁へ叩きつけられる。


 肺の空気が抜ける。


 呼吸が止まる。


 強い。


 やはり。


 サクは強い。


 タケトシが撃つ。


 発砲音。


 一発。


 二発。


 三発。


 サクが下がる。


 その隙にミリアが立ち上がる。


「大丈夫か!」


 タケトシの声。


 ミリアは小さく頷く。


 まだ動ける。


 まだ終わっていない。


 サクは二人を見る。


 それが面白いみたいに。


「不思議だね」


 静かな声。


「君は一人の方が強かったのに」


 ミリアは答えない。


 サクは続ける。


「守るものなんて、足枷だよ」


 羽音が響く。


 島を思い出す。


 あの日。


 何も守れなかった。


 誰も守れなかった。


 だから生き残った。


 サクは笑う。


「君も知ってるはずだ」


 静かに。


 優しく。


「捨てた方が楽だって」


 ミリアは目を閉じる。


 一瞬だけ。


 後ろから小さな泣き声が聞こえる。


 震えている。


 怖がっている。


 あの日の自分みたいに。


 ミリアは目を開く。


 サクを見る。


「……違う」


 小さな声。


 でも。


 確かだった。


 サクが目を細める。


「何が?」


 ミリアは言葉を探す。


 上手くできない。


 昔から。


 苦手だった。


 それでも。


「……一人じゃ」


 息を吐く。


「ここまで来れなかった」


 タケトシが少しだけ目を見開く。


 子供たちがミリアを見る。


 サクだけが黙っていた。


 数秒。


 長い沈黙。


 それから。


 少しだけ寂しそうに笑う。


「そっか」


 本当に。


 少しだけ。


 寂しそうに。


 その瞬間。


 サクの姿が消える。


 今までで一番速い。


 ミリアの身体が警鐘を鳴らす。


 危険。


 狙いは自分だ。


 でも違う。


 サクは子供たちの前へ現れる。


 殺すためじゃない。


 試すために。


 ミリアの視界から。


 子供たちを奪うために。


 悲鳴。


 タケトシが動く。


 ミリアも飛ぶ。


 間に合え。


 その一瞬だけ。


 頭に浮かんだ。


 島の日々。


 冷たい手。


 届かなかった声。


 守れなかった命。


 もう。


 二度と。


 失いたくない。


 ミリアは手を伸ばす。


 全力で。


 前へ。


 そして。


 震える小さな手を掴んだ。

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