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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

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変わったもの

拳と拳がぶつかる。


 衝撃。


 空気が震える。


 ミリアは踏み込む。


 サクは下がらない。


 真正面。


 互いの距離が消える。


 拳。


 肘。


 膝。


 連撃。


 速い。


 だが。


 サクは笑っていた。


 楽しそうに。


 本当に。


 心の底から。


 ミリアは歯を食いしばる。


 強い。


 島にいた頃より。


 ずっと。


 それでも。


 引かない。


 後ろには子供たちがいる。


 タケトシがいる。


 守りたいものがある。


 サクの蹴りが迫る。


 受ける。


 腕が痺れる。


 その隙に。


 ミリアの拳が頬を掠めた。


 赤い線が走る。


 一滴。


 血が落ちる。


 サクが止まる。


 ほんの一瞬。


 目を見開いた。


「……へえ」


 小さく笑う。


 嬉しそうに。


「本当に変わった」


 ミリアは構えを解かない。


 呼吸が乱れている。


 腕も痛い。


 脚も重い。


 でも。


 立っている。


 サクは頬の血を指でなぞる。


 それを見る。


 まるで。


 珍しいものを見るみたいに。


「昔の君なら」


 静かな声。


「こんな戦い方はしなかった」


 ミリアは答えない。


 サクは続ける。


「もっと速かった」


「もっと鋭かった」


「もっと獣だった」


 羽音が響く。


 警報が鳴る。


 赤い光が流れる。


 その全部の中で。


 サクだけが静かだった。


「なのに弱くなったわけじゃない」


 不思議そうに呟く。


 ミリアは小さく息を吐く。


「……違う」


 短い声。


 サクが目を向ける。


 ミリアは視線を逸らさない。


 言葉は続かない。


 上手く説明できない。


 でも。


 後ろを見る。


 震えている子供たち。


 必死に立つタケトシ。


 守りたいもの。


 失いたくないもの。


 それだけで十分だった。


 サクは黙る。


 数秒。


 何も言わない。


 それから。


 少しだけ寂しそうに笑った。


「やっぱり」


 静かな声。


「向こう側へ行ったんだね」


 ミリアには意味が分からない。


 でも。


 サクには分かっていた。


 島で生き残った二人。


 同じ地獄を見たはずなのに。


 今はもう。


 立っている場所が違う。


 タケトシが銃を構える。


「感傷は終わりか?」


 サクが視線を向ける。


 少しだけ笑う。


「うん」


 本当に。


 穏やかな声だった。


 その瞬間。


 空気が変わる。


 ミリアの背筋が凍る。


 今までとは違う。


 サクが初めて。


 本気で構えた。


 羽音が響く。


 警報が鳴る。


 赤い光が流れる。


 その中心で。


 サクは静かに笑った。


「じゃあ」


 一歩。


 踏み出す。


「連れて帰るね」


 その言葉と同時に。


 床が爆ぜた。

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