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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

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届かなかった手


 地下の空気が張り詰める。


 誰も動かない。


 警報だけが鳴っていた。


 赤い光が点滅する。


 羽音が混ざる。


 サクは静かに立っている。


 笑っていた。


 楽しそうに。


 懐かしい遊びを始める子供みたいに。


 ミリアは構える。


 子供たちを背に。


 タケトシが横へ出る。


「おい」


 低い声。


「お前の相手は俺でもいいんだぞ」


 サクは視線だけを向けた。


「邪魔しないで」


 穏やかな声だった。


 でも。


 その瞬間だけ。


 温度が消えた。


 タケトシは眉をひそめる。


 サクの視線は再びミリアへ戻る。


「ねえ」


 一歩。


 近づく。


「覚えてる?」


 死体の山。


 灰色の空。


 腐臭。


『だから綺麗なんだ』


 ミリアの呼吸が浅くなる。


 サクは静かに続ける。


「みんな壊れていった」


「泣いて」


「奪って」


「殺して」


 穏やかな声だった。


 まるで。


 綺麗な景色を思い出しているみたいに。


「でも、君だけは最後まで残った」


 ミリアの指先が震える。


「……違う」


 小さい声。


 サクは首を傾げる。


「違わないよ」


「君は生き残った」


「君は、あの島で一番綺麗だった」


 子供たちが怯えてミリアを見る。


 タケトシが舌打ちする。


「好き勝手言ってんじゃねえよ」


 サクは反応しない。


 視線はミリアだけを見ている。


「どうして、そっちへ行くの?」


 静かな声。


「苦しいだけなのに」


 ミリアは息を呑む。


 胸の奥が痛む。


 分かってしまうから。


 昔の自分なら。


 きっと。


 サクの言葉を否定できなかった。


 サクが小さく笑う。


「君は獣のままでよかった」


 その瞬間。


 ミリアの後ろから、小さな声がした。


「……お姉ちゃん」


 あの女の子だった。


 震えながら。


 でも。


 ミリアの服を掴んでいる。


 小さい手。


 離れないように。


 必死に。


 ミリアは目を閉じる。


 島の記憶が過る。


『ひとりにしないで』


 でも。


 今は違う。


 ミリアはゆっくり目を開く。


「……違う」


 今度は、はっきり言った。


 サクが少しだけ目を細める。


 ミリアは子供たちを見る。


 怯えている。


 泣いている。


 昔の自分みたいに。


 でも。


 まだ生きている。


「……まだ」


 小さく息を吐く。


「終わってない」


 静かな声だった。


 でも。


 確かな意思があった。


 サクは黙る。


 数秒。


 静かにミリアを見る。


 それから。


 少しだけ嬉しそうに笑った。


「そっか」


 羽音が響く。


 サクがゆっくり構える。


「なら、証明して」


 静かな声。


「君が本当に変わったって」


 地下の空気が張り詰める。


 ミリアは一歩前へ出る。


 子供たちを背に。


 タケトシの隣に並ぶ。


 もう。


 逃げない。


 サクが笑う。


 本当に嬉しそうに。


 まるで。


 待ち続けた答えを見つけたみたいに。


 そして。


 かつて島で生き残った二人は、


 再び向き合った。

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