境界線
警報が鳴り続けている。
赤い光が白い部屋を染めていた。
子供たちは怯えている。
小さく震えながら、ミリアの後ろへ集まっていた。
タケトシが入口を見る。
「来るぞ」
足音。
重い。
複数。
武装した兵士たちだった。
銃を構えている。
迷いなく。
子供ごと撃てる目だった。
ミリアは静かに前へ出る。
羽音が聞こえる。
でも。
今は違った。
昔みたいに飲み込まれない。
後ろに、守るものがある。
それだけで。
立てた。
扉が開く。
武装兵が雪崩れ込む。
「対象を確認!」
「蝿の王女だ!」
その呼び名。
子供たちが怯える。
ミリアは小さく目を伏せる。
でも。
否定はしなかった。
兵士の一人が銃を向ける。
「確保しろ!」
発砲音。
ミリアが動く。
一瞬だった。
床を蹴る。
低く潜る。
弾丸が後ろの壁を砕く。
距離を潰す。
兵士の懐へ。
拳。
喉。
呼吸を止める。
そのまま肘を叩き込む。
兵士が崩れる。
次。
横から別の兵士が来る。
ナイフ。
速い。
でも。
ミリアの方が速かった。
腕を掴む。
捻る。
骨が鳴る。
ナイフが落ちる。
そのまま蹴り飛ばす。
タケトシが子供たちを誘導する。
「こっちだ!」
怯えた子供たちが動き始める。
でも。
一人だけ動けない子がいた。
小さい男の子。
座り込んでいる。
泣いていた。
兵士が気づく。
銃口が向く。
ミリアの呼吸が止まる。
島の記憶。
泣き声。
『死にたくない』
一瞬で重なる。
身体が先に動いていた。
男の子を抱き寄せる。
発砲音。
衝撃。
壁が砕ける。
破片が頬を掠める。
でも。
間に合った。
男の子が震えながらミリアを見る。
「……あ」
声にならない声。
ミリアは小さく首を振る。
「大丈夫」
短い。
でも。
今度は迷いがなかった。
兵士たちが距離を取る。
警戒している。
その時。
通路の奥から、ゆっくり拍手が聞こえた。
軽い音。
場違いなくらい穏やかな。
ミリアの目が止まる。
聞き覚えがあった。
羽音が大きくなる。
兵士たちが道を開ける。
通路の奥。
灰色の髪。
静かな目。
サクが立っていた。
少し笑っている。
「すごいね」
穏やかな声。
昔と変わらない。
でも。
あの島より、ずっと歪んでいた。
サクは死体の転がる床を見る。
崩れた兵士。
血。
怯える子供たち。
それを見て。
少しだけ目を細める。
「やっぱり綺麗だ」
ミリアの身体が強張る。
耳の奥で、あの日の羽音が蘇る。
死体の山。
腐臭。
灰色の空。
そして。
『だから綺麗なんだ』
サクがミリアを見る。
真っ直ぐ。
懐かしいものを見るみたいに。
「迎えに来たよ」
静かな声だった。
でも。
その言葉だけで。
地下の空気が、一気に冷えた。




