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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

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戻る場所

 羽音が響いている。


 黒い蝿。


 死体の山。


 腐った匂い。


 サクの声。


『だから綺麗なんだ』


 ミリアは動けない。


 崩れたまま。


 死体を見ている。


 寒い。


 怖い。


 でも。


 目が離せなかった。


 その時。


『ミリア!』


 声が響く。


 遠い。


 でも。


 強く。


 現実を引き戻す声だった。


 ミリアの呼吸が止まる。


 視界が揺れる。


 死体の山。


 違う。


 白い部屋。


 檻。


 地下施設。


 羽音。


 警報。


 全部が混ざる。


「ミリア!」


 今度は近かった。


 タケトシだった。


 その瞬間。


 ミリアは現在へ戻る。


 肩を掴まれる。


 呼吸が乱れる。


 目の前には、怯えた子供たち。


 白い実験室。


 開いた檻。


 ミリアは息を呑む。


 頭が痛い。


 耳の奥で、まだ羽音が鳴っている。


「おい、大丈夫か」


 タケトシの声。


 ミリアは答えられない。


 視線だけが揺れる。


 すると。


 小さな手が服を掴んだ。


 あの女の子だった。


 震えている。


 でも。


 離さない。


「……いかないで」


 小さな声。


 ミリアの身体が止まる。


 島の記憶。


『ひとりにしないで』


 重なる。


 胸の奥が痛む。


 でも。


 今は違う。


 ミリアはゆっくり呼吸する。


 目を閉じる。


 それから。


 小さく首を振った。


「……行かない」


 ぎこちない声。


 でも。


 ちゃんと届くように言う。


「大丈夫」


 子供たちを見る。


 怯えている。


 泣いている。


 昔の自分みたいに。


 ミリアはしゃがむ。


 目線を合わせる。


 怖がらせないように。


「……もう、終わり」


 上手く言葉にできない。


 でも。


 それでも伝えたかった。


 子供たちの震えが少しだけ弱くなる。


 その時。


 施設の奥から警報が大きく鳴った。


 赤い光。


 低いアナウンス。


『第一研究区画、封鎖を開始します』


 タケトシが舌打ちする。


「クソ、来るぞ」


 足音が聞こえる。


 複数。


 武装した連中だった。


 ミリアは立ち上がる。


 まだ頭は痛い。


 耳鳴りも消えない。


 でも。


 目は前を向いていた。


 タケトシが子供たちを見る。


「逃がせるか?」


 ミリアは頷く。


「……守る」


 短い言葉。


 でも。


 前とは違った。


 もう。


 守れなかった側じゃない。


 サクの声が、頭の奥で響く。


『死ぬよ』


 ミリアは静かに目を閉じる。


 それから。


 ゆっくり開いた。


「……今度は」


 羽音が鳴る。


 でも。


 もう飲まれない。


 ミリアは子供たちの前へ立つ。


 迫ってくる足音を見る。


 そして。


 静かに構えた。

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