死体の山
島は、静かになっていた。
あれだけ響いていた悲鳴も。
怒鳴り声も。
もう少ない。
残っているのは。
羽音だけだった。
空は曇っている。
灰色。
冷たい風が吹いていた。
地面には血が残っている。
乾いたもの。
まだ濡れているもの。
踏み荒らされた跡。
引きずった跡。
島のあちこちに残っていた。
ミリアは歩いている。
裸足だった。
足が痛い。
でも。
感覚が薄い。
腹も減っている。
喉も渇いている。
なのに。
もう、何も考えられなかった。
小屋の外。
死体が転がっている。
昨日まで話していた子供。
名前を知っている子供。
知らない子供。
もう。
区別も曖昧だった。
蝿が飛んでいる。
黒い羽音。
どこに行っても聞こえる。
ミリアは立ち止まる。
前に、人影があった。
サクだった。
灰色の髪。
血で汚れた服。
でも。
目だけは静かだった。
サクは死体を見下ろしている。
興味深そうに。
「……また減った」
独り言みたいに言う。
ミリアは何も答えない。
声を出す力も残っていなかった。
サクは振り返る。
ミリアを見る。
「君、まだ死なないんだ」
不思議そうだった。
ミリアは視線を逸らす。
その時。
遠くで悲鳴が聞こえた。
短い。
すぐに途切れる。
ミリアの身体が震える。
でも。
動けない。
怖い。
もう。
何も見たくなかった。
サクはその音を聞いて、小さく笑う。
「終わりが近いね」
嬉しそうですらあった。
ミリアはサクを見る。
理解できない。
どうして。
そんな顔ができるのか。
その時。
サクの後ろ。
積み重なった死体が見えた。
子供たち。
何人も。
折り重なるように倒れている。
蝿が群がっていた。
羽音が大きくなる。
ミリアの呼吸が止まる。
知っている顔があった。
小屋にいた子供。
缶を抱えていた子供。
泣いていた女の子。
もう動かない。
ミリアの脚から力が抜ける。
その場に崩れる。
サクは黙って見ていた。
ミリアは死体の山を見る。
視線が離れない。
胸の奥が空っぽになる。
悲しいのか。
怖いのか。
もう分からない。
ただ。
羽音だけが響いている。
サクがゆっくり近づく。
死体を踏む。
気にもしない。
それから。
ミリアの前でしゃがみ込む。
「綺麗だ」
静かな声だった。
ミリアは顔を上げる。
サクは死体の山を見ている。
恍惚ですらない。
もっと静かな。
本当に美しいものを見る目だった。
「みんな、生きようとして死んだ」
羽音。
風。
腐臭。
全部が混ざる。
「だから綺麗なんだ」
ミリアには分からない。
でも。
否定する言葉も出なかった。
頭がぼんやりしている。
疲れている。
怖い。
寒い。
その時。
遠くで誰かの叫び声が聞こえた。
また。
誰かが死ぬ。
サクが立ち上がる。
「行こう」
自然に言う。
ミリアは動けない。
死体の山を見続ける。
蝿が飛んでいる。
黒い。
気持ち悪い。
なのに。
目が離せなかった。
サクはそんなミリアを見る。
数秒。
静かに。
それから。
少しだけ笑った。
「……やっと見つけた」
小さな声。
ミリアには意味が分からなかった。
でも。
その時のサクの目だけは。
ずっと。
忘れられなかった。




