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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

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生きるために

 小屋の中は、地獄だった。


 怒鳴り声。


 悲鳴。


 殴る音。


 泣き声。


 全部が混ざっている。


 食料の缶は床を転がっていた。


 誰かが奪う。


 誰かが取り返す。


 倒れる。


 蹴る。


 もう。


 誰も止まれなかった。


 ミリアは壁際で膝を抱えている。


 耳の奥で羽音が鳴っていた。


 怖い。


 身体が震える。


 でも。


 目だけは閉じられない。


 目の前で、年上の男の子が別の子供を殴っていた。


 何度も。


 何度も。


「返せ!」


 掠れた声。


「俺が見つけたんだ!」


 殴られている子供は、もう抵抗できていない。


 それでも。


 缶だけは離さない。


 その顔を見た瞬間。


 ミリアは気づく。


 みんな、怖いんだと。


 食べないと死ぬ。


 だから。


 壊れていく。


 その時。


 誰かが缶を奪った。


 一瞬。


 空気が止まる。


 次の瞬間。


 全員が動いた。


 飛びかかる。


 引き倒す。


 爪を立てる。


 噛みつく。


 もう。


 子供の顔じゃなかった。


 ミリアの呼吸が浅くなる。


 苦しい。


 怖い。


 逃げたい。


 でも。


 どこにも行けない。


 その時だった。


 入口の近くにいた灰色の髪の男の子。


 サクが、ゆっくり床へしゃがみ込む。


 転がってきた缶を拾う。


 静かだった。


 周囲が殴り合っているのに。


 一人だけ。


 まるで別の場所にいるみたいに。


 サクは缶を見る。


 少しだけ笑う。


「これで、こんなになるんだ」


 独り言みたいだった。


 ミリアはサクを見る。


 怖かった。


 殴っている子供たちより。


 ずっと。


 サクは缶を持ったまま立ち上がる。


 誰かが気づく。


「返せ!」


 飛びかかる。


 痩せた男の子だった。


 目が血走っている。


 でも。


 サクは避けない。


 近づいてきた瞬間。


 静かに横へずれる。


 足を払う。


 男の子が転ぶ。


 鈍い音。


 頭。


 床。


 一瞬。


 静かになる。


 倒れた子供は動かなかった。


 サクはその姿を見る。


 数秒。


 じっと。


 それから。


「……ああ」


 小さく呟く。


「こうやって死ぬんだ」


 ミリアの背筋が冷える。


 サクは笑っていなかった。


 悲しんでもいない。


 ただ。


 本当に興味深そうに見ていた。


 その時。


 誰かが泣きながら叫ぶ。


「いやだ……!」


 小さな女の子だった。


 震えている。


「やめてよぉ……!」


 でも。


 誰も止まらない。


 食べ物。


 恐怖。


 空腹。


 それだけが、みんなを動かしていた。


 ミリアは立ち上がろうとする。


 でも。


 脚に力が入らない。


 怖い。


 頭の奥で。


 ずっと羽音がしている。


 サクがミリアを見る。


 静かな目。


「君は、やらないんだ」


 ミリアは答えられない。


 サクは小さく首を傾げる。


「死ぬよ」


 淡々と言う。


 まるで。


 当たり前のことみたいに。


 その瞬間。


 小屋の奥で悲鳴が上がった。


 誰かが。


 刃物を持っていた。


 空気が変わる。


 ミリアの呼吸が止まる。


 子供たちも止まる。


 でも。


 もう遅かった。


 血が飛ぶ。


 赤。


 悲鳴。


 羽音。


 全部が一気に混ざる。


 そして。


 島は、本当に壊れ始めた。

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