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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

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壊れはじめた島

 雨は、三日止まなかった。


 食べ物も。


 もう、ほとんど残っていなかった。


 小屋の空気は重い。


 誰も喋らない。


 喋れば腹が減る。


 動けば苦しい。


 みんな、俯いていた。


 ミリアは壁にもたれて座っている。


 隣には、もう誰もいない。


 あの女の子がいた場所だけが、空いていた。


 見ないようにしても。


 視線が向いてしまう。


 胸の奥が痛かった。


 その時。


 入口の近くで怒鳴り声が上がった。


「返せ!」


 子供の声。


 すぐに揉み合う音。


 誰かが転ぶ。


 小屋の空気が張る。


 年上の男の子が、一人の子供を突き飛ばしていた。


 痩せた手。


 その手には、小さな缶が握られている。


 食料だった。


「俺のだ!」


「違う!

 みんなの――」


 最後まで言えなかった。


 殴られる。


 鈍い音。


 小屋の中が静まる。


 誰も止めない。


 止める力がない。


 止めれば、自分に向く。


 みんな分かっていた。


 倒れた子供が咳き込む。


 口の端から血が落ちる。


 でも。


 缶を握った子供は離さない。


 目が怖かった。


 飢えた目。


 人を見る目じゃない。


 ミリアはそれを見る。


 怖い。


 でも。


 目を逸らせなかった。


「……半分」


 誰かが小さく言う。


「分ければ――」


「うるさい!」


 怒鳴り声。


 小屋が震える。


 缶を持った子供が周囲を見る。


 怯えている。


 でも。


 渡さない。


「食ったら、次は?」


 掠れた声だった。


「次、あるのかよ」


 誰も答えられない。


 沈黙だけが残る。


 羽音が聞こえる。


 外。


 死体の近く。


 どんどん増えていた。


 その時。


 入口の近くにいた小さな子供が、ふらつきながら立ち上がった。


 目が虚ろだった。


「……おなか、すいた」


 歩く。


 缶へ向かって。


 ゆっくり。


 倒れそうになりながら。


「ちょうだい」


 小さな声。


 でも。


 缶を持った子供の顔が歪む。


「来るな!」


 押した。


 強く。


 小さな身体が吹き飛ぶ。


 床へぶつかる。


 嫌な音がした。


 一瞬。


 誰も動かなかった。


 小さな子供は動かない。


 目だけが開いている。


 でも。


 何も映っていなかった。


 羽音だけが響く。


 誰かが息を呑む。


「……あ」


 缶を持っていた子供の手が震える。


「ち、違……」


 言葉が続かない。


 でも。


 もう遅かった。


 小屋の空気が変わる。


 恐怖。


 飢え。


 怒り。


 全部が混ざる。


「殺した」


 誰かが呟く。


 その瞬間。


 誰かが缶を奪おうと飛びかかった。


 悲鳴。


 怒鳴り声。


 殴る音。


 一気だった。


 ミリアは動けない。


 目の前で。


 子供たちが殴り合っている。


 泣いている。


 叫んでいる。


 でも。


 止まらない。


 食べなければ死ぬ。


 その恐怖だけが、みんなを動かしていた。


 ミリアは壁際で膝を抱える。


 怖い。


 息が苦しい。


 耳の奥で羽音が鳴っている。


 誰かが倒れる。


 誰かが叫ぶ。


 誰かが奪う。


 もう。


 分からない。


 その時だった。


 小屋の入口に、一人の男の子が立っていた。


 灰色の髪。


 細い身体。


 でも。


 その目だけが妙に静かだった。


 周囲の惨状を見る。


 泣き声。


 血。


 殴り合い。


 死体。


 その全部を。


 興味深そうに。


 眺めていた。


 ミリアと目が合う。


 男の子は数秒、黙っていた。


 それから。


 少しだけ笑う。


「……綺麗だね」


 羽音が響く。


 ミリアは、その言葉の意味が分からなかった。

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