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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

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選べなかった

 朝だった。


 雨は止んでいた。


 でも。


 空は灰色のままだった。


 小屋の中は静かだった。


 静かすぎた。


 昨日まで聞こえていた咳も。


 泣き声も。


 少なくなっている。


 ミリアは目を開ける。


 寒い。


 身体が重い。


 腹が痛い。


 隣を見る。


 女の子がいた。


 壁にもたれて座っている。


 目を閉じたまま。


 動かない。


 ミリアはしばらく見ていた。


 呼吸。


 分からない。


『……ねえ』


 小さく呼ぶ。


 返事はない。


 羽音だけが聞こえる。


 ミリアはゆっくり手を伸ばす。


 触れる。


 冷たかった。


 その瞬間。


 頭の奥が真っ白になる。


『……やだ』


 声が漏れる。


 小さい。


 でも。


 止まらない。


『やだ』


 女の子は動かない。


 目も開けない。


 昨日まで。


 話していたのに。


 怖いって。


 ひとりにしないでって。


 言っていたのに。


 ミリアの呼吸が乱れる。


 胸が苦しい。


 上手く吸えない。


 その時。


 小屋の入口が開いた。


 強い足音。


 年上の子供たち。


 痩せている。


 目だけが鋭い。


「もう動かないか」


 感情の薄い声だった。


 誰も近づかない。


 慣れている。


 何度も見てきた顔だった。


「外に捨てるぞ」


 その言葉で。


 ミリアの身体が動く。


「だめ」


 初めてだった。


 こんな強く言ったのは。


 年上の子供がミリアを見る。


「置いといたら臭う」


「でも」


「蝿も来る」


 正しいことだった。


 この島では。


 もう。


 そうするしかない。


 でも。


 ミリアは女の子の服を掴む。


 離せない。


 離したら。


 本当にいなくなる気がした。


「やだ」


 また言う。


 子供たちは困った顔をする。


 でも。


 優しくはできない。


 そんな余裕、誰にも残っていなかった。


「ミリア」


 一人がしゃがむ。


 声だけは少し柔らかい。


「もう無理だ」


 ミリアは首を振る。


 嫌だった。


 認めたくない。


 でも。


 女の子の身体は冷たい。


 もう。


 分かっている。


 分かっているのに。


 離せない。


 その時。


 小屋の外から悲鳴が聞こえた。


 短い。


 でも、近い。


 全員の身体が止まる。


 怒鳴り声。


 走る音。


 そして。


 何かを殴る音。


 年上の子供たちの顔色が変わる。


「来た」


 誰かが呟く。


 恐怖が広がる。


 小屋の空気が一気に冷える。


 ミリアは女の子を抱えたまま動けない。


 その時。


 入口の向こうに、人影が見えた。


 逆光。


 大きい。


 血の匂い。


 羽音。


 そして。


 笑い声。


 子供たちが後ずさる。


 怯えた顔。


 ミリアも息を止める。


 怖い。


 身体が動かない。


 人影が、小屋の中を見る。


 ゆっくり。


 値踏みするみたいに。


 その目が。


 ミリアで止まった。


「……まだ残ってたか」


 男の声。


 低い。


 知らない声。


 でも。


 本能が理解していた。


 危ない。


 ここにいたら死ぬ。


 その時。


 ミリアの腕の中から、小さな手が滑り落ちた。


 冷たい。


 軽い。


 何も握り返してこない。


 ミリアはそれを見る。


 頭の奥で。


 何かが壊れる音がした。

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