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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

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飢え

 雨が降っていた。


 冷たい。


 ずっと。


 止まない。


 空は暗く、海も黒かった。


 島には、もう声が少なかった。


 泣く力も残っていない。


 小屋の中。


 子供たちが寄り集まっていた。


 寒さを耐えるみたいに。


 でも。


 温かくはならない。


 痩せている。


 細い。


 骨が浮いている。


 ミリアも、その中にいた。


 小さい。


 今よりずっと。


 膝を抱えて座っている。


 腹が痛かった。


 ずっと。


 何日も。


 空っぽで。


『……おなか、すいた』


 誰かが呟く。


 返事はない。


 みんな同じだった。


 雨音。


 羽音。


 腐った匂い。


 島には、そればかりあった。


 小屋の隅。


 毛布に包まった子供が動かない。


 昨日から。


 ずっと。


 誰も近づかない。


 近づけば分かるから。


 もう、起きないと。


 ミリアは視線を逸らす。


 見ない。


 見れば。


 もっと苦しくなる。


『ミリア』


 声。


 隣だった。


 小さな女の子。


 年下。


 髪が短い。


 目だけが大きい。


『ねえ』


 ミリアは動かない。


『今日、食べるものあるかな』


 返事ができない。


 女の子は笑おうとする。


 でも、上手く笑えない。


『……魚、とれるかな』


 外を見る。


 雨。


 波。


 冷たい風。


 昨日、海へ行った子供は戻らなかった。


 みんな知っている。


 でも。


 誰も言わない。


 ミリアは膝を抱く力を強くする。


 腹が痛い。


 気持ち悪い。


 頭がぼんやりする。


『ミリア』


 また呼ばれる。


 女の子の声。


『こわい』


 小さかった。


 震えていた。


『……死にたくない』


 その言葉で。


 胸の奥が痛くなる。


 ミリアは何も言えない。


 何を言えばいいのか分からない。


 助かるなんて、言えない。


 大丈夫とも、言えない。


 外では、また羽音がしていた。


 死んだ子供に、蝿が集まっている。


 昨日より増えている。


 でも。


 誰も追い払わない。


 もう、立つ力がない。


 女の子がミリアの服を掴む。


 弱い力。


『……ねえ』


 ミリアはゆっくり視線を向ける。


 女の子の目。


 泣いていた。


『ひとりにしないで』


 呼吸が止まる。


 その言葉が。


 ずっと。


 耳の奥に残った。


 今も。


 消えないくらいに。


 小屋の外で、誰かの悲鳴が聞こえた。


 一瞬。


 みんなが震える。


 怒鳴り声。


 殴る音。


 泣き声。


 すぐ近く。


 でも。


 誰も動けない。


 ミリアは俯く。


 身体が重い。


 怖い。


 でも。


 耳だけは塞げなかった。


 女の子の手が、少しずつ弱くなる。


 ミリアはその感触を感じている。


 冷たい。


 細い。


 消えそうだった。


 だから。


 ミリアは初めて、自分から手を握った。


 小さな手。


 壊れそうなくらい弱い。


 でも。


 離したくなかった。


 雨は止まない。


 羽音も。


 泣き声も。


 ずっと。


 島に残り続けていた。

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