飢え
雨が降っていた。
冷たい。
ずっと。
止まない。
空は暗く、海も黒かった。
島には、もう声が少なかった。
泣く力も残っていない。
小屋の中。
子供たちが寄り集まっていた。
寒さを耐えるみたいに。
でも。
温かくはならない。
痩せている。
細い。
骨が浮いている。
ミリアも、その中にいた。
小さい。
今よりずっと。
膝を抱えて座っている。
腹が痛かった。
ずっと。
何日も。
空っぽで。
『……おなか、すいた』
誰かが呟く。
返事はない。
みんな同じだった。
雨音。
羽音。
腐った匂い。
島には、そればかりあった。
小屋の隅。
毛布に包まった子供が動かない。
昨日から。
ずっと。
誰も近づかない。
近づけば分かるから。
もう、起きないと。
ミリアは視線を逸らす。
見ない。
見れば。
もっと苦しくなる。
『ミリア』
声。
隣だった。
小さな女の子。
年下。
髪が短い。
目だけが大きい。
『ねえ』
ミリアは動かない。
『今日、食べるものあるかな』
返事ができない。
女の子は笑おうとする。
でも、上手く笑えない。
『……魚、とれるかな』
外を見る。
雨。
波。
冷たい風。
昨日、海へ行った子供は戻らなかった。
みんな知っている。
でも。
誰も言わない。
ミリアは膝を抱く力を強くする。
腹が痛い。
気持ち悪い。
頭がぼんやりする。
『ミリア』
また呼ばれる。
女の子の声。
『こわい』
小さかった。
震えていた。
『……死にたくない』
その言葉で。
胸の奥が痛くなる。
ミリアは何も言えない。
何を言えばいいのか分からない。
助かるなんて、言えない。
大丈夫とも、言えない。
外では、また羽音がしていた。
死んだ子供に、蝿が集まっている。
昨日より増えている。
でも。
誰も追い払わない。
もう、立つ力がない。
女の子がミリアの服を掴む。
弱い力。
『……ねえ』
ミリアはゆっくり視線を向ける。
女の子の目。
泣いていた。
『ひとりにしないで』
呼吸が止まる。
その言葉が。
ずっと。
耳の奥に残った。
今も。
消えないくらいに。
小屋の外で、誰かの悲鳴が聞こえた。
一瞬。
みんなが震える。
怒鳴り声。
殴る音。
泣き声。
すぐ近く。
でも。
誰も動けない。
ミリアは俯く。
身体が重い。
怖い。
でも。
耳だけは塞げなかった。
女の子の手が、少しずつ弱くなる。
ミリアはその感触を感じている。
冷たい。
細い。
消えそうだった。
だから。
ミリアは初めて、自分から手を握った。
小さな手。
壊れそうなくらい弱い。
でも。
離したくなかった。
雨は止まない。
羽音も。
泣き声も。
ずっと。
島に残り続けていた。




