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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第4章 蝿の王女

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消えない羽音

 護衛の腕が上がる。


 銃口。


 火花。


 発砲音。


 ミリアは前へ出る。


 身体が勝手に動いていた。


 低く。


 速く。


 弾道を外す。


 床を滑るように距離を詰める。


 護衛の懐へ。


 拳。


 腹。


 呼吸が潰れる。


 そのまま壁へ叩きつける。


 白衣の悲鳴。


 警報。


 羽音。


 全部が混ざる。


 ミリアは止まらない。


 檻へ向かう。


 中の子供たちが震えている。


 泣いている。


 声を押し殺して。


 その顔を見た瞬間。


 頭の奥が揺れた。


 暗い。


 寒い。


 腹が痛い。


 喉が乾く。


『……おなか、すいた』


 小さな声。


 一瞬だった。


 でも。


 鮮明だった。


 ミリアの足が止まる。


 視界が揺れる。


 檻。


 違う。


 鉄格子じゃない。


 崩れた小屋。


 汚れた床。


 震えている子供。


 痩せた手。


 泣き声。


『ミリア』


 誰かが呼ぶ。


 幼い声。


『ねえ』


 羽音。


 耳のすぐ近く。


 うるさい。


 気持ち悪い。


『……いや』


 小さな声。


『死にたくない』


 呼吸が止まる。


 ミリアの指先が震える。


 頭の奥で、記憶が擦れる。


 暗い夜。


 雨。


 血の匂い。


 誰かが泣いていた。


 でも。


 顔が見えない。


「ミリア!」


 現実の声。


 タケトシだった。


 その瞬間。


 ミリアは戻る。


 白い部屋。


 檻。


 泣いている子供。


 護衛が立ち上がる。


 ナイフを抜く。


 ミリアは息を吐く。


 短く。


 乱れている。


 でも。


 目は閉じない。


 護衛が突っ込んでくる。


 刃。


 速い。


 だが。


 ミリアの方が早かった。


 身体を捻る。


 躱す。


 腕を掴む。


 そのまま床へ叩き落とす。


 鈍い音。


 終わりだった。


 ミリアはすぐ檻へ向かう。


 鍵。


 電子式。


 タケトシが端末を奪う。


「開ける!」


 操作音。


 数秒。


 長い。


 子供たちは怯えたまま、ミリアを見ている。


 その中に。


 一人だけ。


 じっとミリアを見ている女の子がいた。


 十歳くらい。


 痩せている。


 でも。


 その目だけは、妙に強かった。


「……お姉ちゃん」


 小さな声。


 ミリアの視線が止まる。


 女の子は震えながら続ける。


「泣いてるの?」


 ミリアは動かない。


 分からなかった。


 でも。


 頬が濡れていた。


 いつの間にか。


 自分でも気づかないまま。


 羽音が響く。


 消えない。


 ずっと。


 耳の奥に残っている。


 島から。


 今も。


 ずっと。


 その時。


 檻の鍵が外れる。


 小さな音。


 タケトシが叫ぶ。


「開いた!」


 子供たちが震える。


 でも、動けない。


 ミリアはゆっくり檻を開ける。


 しゃがむ。


 目線を合わせる。


 怖がらせないように。


「……もう、大丈夫」


 ぎこちない言葉。


 上手くない。


 でも。


 嘘じゃなかった。


 女の子の目が揺れる。


 それから。


 小さく、ミリアの服を掴んだ。


 弱い力。


 でも。


 必死だった。


 その感触で。


 ミリアの胸の奥が、また痛くなる。


 忘れていない。


 消えていない。


 でも。


 今度は。


 離さなかった。

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