5話
菜摘先輩と映画を見に行ってから早くも一ヶ月が経とうとしていた。別に何かあったなんてことはない。シフトだって被るし、いつも通り話しているし、学校も休まず行っている。
ただ、何気ない日常がただ何事もなく進んだ。それだけのこと。
僕は依然として菜摘先輩への思いは変わらず遊びに誘う口実を考えていたが、あまりにも無さすぎた。そんなこんなしているうちに一ヶ月近く経ってるもんだから、そもそも前に遊んだ時すらどうやって誘ってたか思い出せなくなって僕は困り果てていた。
「優弥ー今度バイト上がったらご飯でも行かない?」
いきなりだった。僕から誘おうと考えていて誘うタイミングを逃し続け、結局菜摘先輩から誘わせてしまった。ダサすぎる。しかも、次で三度目なのだ。告白しようと決めてから。言われてしまってからもう遅いことは百も承知で「僕もそろそろ誘うと思ってたんですよ」と言った。どこまでもダサく情けなかったが男としてのプライドが邪魔してしまったんだから仕方がない、と僕は心の中で言い聞かせた。誘いたかったのは事実なんだから。
あれから一週間後の今日、今日がそのバイト終わりにご飯に行く日だ。初めてバイトに行く前から気合いを入れてワックスをつけてから向かった。
「菜摘先輩、今日どこ食べに行きます?」
「んー優弥くんは食べたいのなんかある?」
「菜摘先輩食べたいのあればそこ行きましょなかったら僕調べますよ」
もう既に緊張が止まらない。バイトが終わるまでまだ三時間もある。お客さんの入れ替わりが激しいこの時間帯で一番聴こえるのはお客様の声でも菜摘先輩の声でもない。自分の心臓の音が何よりも大きく聴こえる。この音はいつ消えるのだろうか。バイトが終わったら?菜摘先輩に告白したら?いつすればいいんだ?頭が真っ白になる。自分ではどうすることもできないこの感情は止まることなく膨れ上がり続いていった。
「優弥くん今日何か体調良くない?」
バイトが終わりすぐに僕が恥ずかしくなるところを突いてくる。でも、今日告白しようと思って緊張してたなんてそれこそ恥ずかしくて言えたもんじゃない。
菜摘先輩も食べたいのは特に決まっていなかったらしく、店は結局僕が調べて決めた。
最近人気らしい中華屋にした。
バイトが終わりコンビニを後にした僕達は決めていた中華屋に向かった。
「菜摘先輩、今日行くとこ食べたことあります?」
「んーん、初めてだよ楽しみ」
向かう道中いつもより会話が広がらない。僕の緊張が伝染しているかのように菜摘先輩の口も重くなっている気がする。こんな時でも変わらず会話を続けれる人もたまにいるがつくづく尊敬する。僕は口を開けても頭が真っ白で話題が浮かばず開けた口をどうしようか迷った挙句、欠伸をているフリをして誤魔化す。なんて最悪なやつなんだと自分でも思うが癖というものは怖く、気づいたらまたしてしまっていた。これで二度目だ。
「優弥くん眠い?今日忙しかったもんね」
全然眠くないのに欠伸をして菜摘先輩に気まで使わせてしまった。
食べる前に告白するか、食べた後どこかで告白するか考えていたら話す話題なんて浮かぶ訳がない。とりあえず楽しんで流れに任せることにしよう。そう思うと吹っ切れて、なんだかいつものテンションに戻れたような気がした。
「いや、全然眠くないですよ!菜摘先輩とのご飯楽しみすぎて昨日寝れなかっただけなんで!全然眠くないです」
変なテンションになってしまったが話さないよりマシだと思った。ここから盛り上げていこう。
「ふふ、寝れてないじゃん」
「好きです」
??? あれ?




