3話
「優弥くん駅の時間大丈夫?」
「あーそろそろ向かった方がいいかもです」
「なんか、時間経つの早すぎたね」
「そうですね、また近いうち遊びましょうよ」
「もちろん!楽しみだね」
菜摘先輩との軽い約束を交わした後、家まで送り僕は駅に向かった。
もう八月も終盤に差し掛かっているというのに夏の生ぬるい空気はまだまだ続きそうだ。虫の体力も毎年更新されているんじゃないかと疑うくらい元気に泣いている。僕はなるべく裏路地の涼しい場所を歩きながら今日の余韻に浸り歩いた。
「夏休み、早かったな」と僕は呟く。あと一週間ほどで大学に入学して初めての夏休みが終わる。
夏休みが終わり学校生活が再開した。サークル無所属の僕は特に予定もなかったため変わらずバイトに行く日々は変わらなかった。菜摘先輩もサークルに入っていないといつの日か聞いたことがあったので、当然かのようにシフトの被る率は夏休み前と対して変わることはなく、変わったことといえば日中入れていたシフトが午後からしか入れなくなったくらいだった。
「この前のラーメン屋美味しかったね」
「美味しかったですよね!」
「次はご飯の前に遊び行くのも楽しそうですよね」
「あ、アリだね私観たい映画あったんだ」
「いいですね。じゃあそれ見に行きましょうよ」
映画なんて映画館で見るのは何年ぶりだろうか、スマホの普及が広がり動画視聴や映画鑑賞、最近なんてオーディブルまであり、もはや目で見て楽しむだけの時代は薄れてきつつあるはずの世の中でも映画館に行くと毎度人混みの多さに驚くくらいだから映画館というものを考えた人はやっぱりすごいなと思う。
まあ、誰が考えたのか気になるけど調べるほどじゃないしなとスマホを取り出したはいいが時間だけ見てまた閉じるのは僕だけじゃないはずだ。
恋愛でよくある話は3回目のデートで告白しようという話は誰もが聞いたことがあると思う。僕も当然のように3回目で告白しようと考えているが、まさか2回目で行きたい場所を彼女の方から先に提案されると思っていなかったから正直戸惑った。しかも、映画を一緒に見に行くなんて前のラーメン屋に行くよりも何倍もデートっぽくて緊張する。
観たい映画を聞いても全然ピンと来なかったから調べてみるとだいぶマニアックそうなホラーでもファンタジーでもないほのぼの系の日常がテーマの映画だった。
「菜摘先輩はこっち系の映画が好きなんですか?」
「そうそう、なんかほのぼのしてるストーリーって見てて癒されるからさ」
めちゃくちゃわかる。それにしても意外だった。なんとなく雰囲気がホラー系とかを好んでるイメージだったけど、どんな雰囲気かを説明しようとすると難しい。ノリの良さ?話し方?勢いで友達と見て楽しんでいるようなとにかくそんな雰囲気。ほのぼの系が好きなのを知ってまた可愛らしい一面を知ったと思った。
一方の僕は昔からアクション系とか男が好きそうな、というより有名どころしか見てこなかったからそれがマニアックなのかすら正直なところわかっていなかった。確かに調べた時に、その映画は女の子からの人気がすごいらしく、映画館は週末はほぼ満席とどこかのサイトに書いてあった。僕は柄にもなく予習しとかないとなと思い24時間営業のネットカフェに行き、映画の原作だった漫画を第一巻から今出ている間まで片っ端から読んだ。
女の子からの人気がすごいとどこかのサイトに書いてあったが読んでみると、ただ日常がダラダラと流れていくだけの話なのに凄い読みやすい。めちゃくちゃ面白くて気つけば一気に読み切ってしまっていた。漫画の表紙が確かに女の子が好きそうな絵だとは思うが内容は誰でも楽しめそうなストーリーだったから男子人気が少ないのは表紙で敬遠して読んでない人が多いんだろうなって思った。
簡単な内容だけ、登場人物は主に高校生の二人の男女の話。日常のよくあるシーンを描いており、お互いがお互いを気になっているからこその感じ方、見え方を事細かに描いていく恋愛青春系。王道といえばそれまでだが、絵柄の好み、話す口調、内容の細かさ、これがマッチする人が多い作品ならどれだけ王道なジャンルでも売れると思う。実際女の子の感性には凄くマッチしたのだろう。
「菜摘先輩、今日観にいく映画の漫画全部読んできたっすよ」
「え!本当に、面白かったでしょ」
「表紙が女の子ウケ良さそうでしたけど内容がすげー面白かったんで気づいたら一気読みしちゃってました」
「わっかるう読み始めると止まんないよね」
学校が再開したとてバイト三昧の僕たちは夏休みの面影を残したままだ。9月2週目の休日、僕らは映画館に向かった。
「人多いね」
「やっぱ休日は混んでますね」
「早いとこ券買ってからゆっくり待とっか」
休日の人混みの多さに気が滅入りそうになる。そんな気持ちをグッと堪え見渡した限り一番早く券売機に行けそうな列の最後尾に僕達は並んだ。一人で映画館に来たら僕は人混みの多さとガヤガヤした空間に嫌気がさして日を改める選択をしたに違いないだろう。だが好きな子とのデートともなれば話は別だ。あれほどキツいと思った待ち時間も、話していれば僕らの番がすぐに来た。券は真ん中より少し奥の右側にちょうど空席が二つ並んでいるのを見つけたから、その席を予約した。




