2話
一度考えてしまったらこの単純な思いは僕の思う速度より早く、確実にそれを確定させるかのように頭の中はそれしか考えられなくなっていった。
とは言ったものの、今までの距離感が変わることもないし話す内容も変わるわけじゃない。
ただ、僕の気持ちなんて関係無しに時の流れは緩やかなまま進んでいった。
「菜摘先輩、この前話た美味しいラーメン屋バイト終わりに行きません?」気持ちに正直になろうとしてもなかなか難しく、誘いの言葉を出すまでに一週間もかかった。いつもバイトの時間は一緒のことが多かったし、バイト終わりも店の前でだらだらと話しているくらいだったから、菜摘先輩もすんなり誘いに乗ってくれた。
「いいね!ってか私たちこんなにバイトで被るの一緒なのに確かにご飯とかいったことなかったね」
「そうですよ逆に何で今まで行ってなっかのか不思議なくらいです」
「まあ、後輩からの初めての誘いは断らないよ」
「今までこんな仲良く話してたのに断られたら凹みますよ」
普通に話すことが出来ているだろうか、僕は今までどんな風に話していたんだろうか、気持ちが芽生え始めてから今まで普通に出来ていたことが合ってるのか分からなくなる。
初めて人を好きという感情を理解したのは小学生の時だった。当時の僕は話していて楽しいなと思ってからだんだん教室で友達と話している時も、その子がどこの席にいて誰と話して笑っているか気になっていき、自分の気持ちに気づかずとも頭の中ではその子のことばかり考えてしまう時期があった。
親にそれを話したら「優弥はその子のことが好きなんだねえ」と言われた。その時に、これが好きって感情なんだと知った。そこからも中学、高校と人並みには好きな子がいたし、
何度か付き合って、恋人らしいことだってしてきたけど、依然として長くは続いたことはなかった。
分かったことといえば、自分が人を好きになるきっかけは話していてなんか楽しいな、なんか気になるな、となり始めたらもう好きになってるってことくらいだ。最後にいた恋人とも高校二年生の時に別れたっきり恋愛とは程遠い生活の毎日だったから、こんなに菜摘先輩と話していて気にならない訳がなかった。
「ここが優弥くんがおすすめしていた店?」
「そうっすここマジでめちゃくちゃ美味いんでまた食べたかったんですよ」
初めて外で一緒に行ったのはラーメン屋だった。けど、場所なんて正直どこでも良かった。食べ終わったらコンビニでお酒でも買って公園で散歩しながら駄弁れればデートっぽいんじゃないか?。
僕の頭にはもうデートを遂行することで頭がいっぱいで正直ラーメンどころではなかった。当然かのようにラーメンの味など覚えていない。
でも、ラーメンを食べる時に菜摘先輩が髪を耳にかける仕草がとても可愛らしくそれだけで来て良かったと思った。
「菜摘先輩、コンビニでお酒でも買って公園で駄弁りませんか?」
「めっちゃあり!行こ行こ!」
ラーメン屋を出たら近くのコンビニに向かった。公園までの道中で飲むレモンサワーと駄弁るの盛り上がると絶対一本じゃ足りないよねと追加でサワーを二つ、多少のつまみをカゴに入れレジで会計を済まし外に出た。
「なーんか外歩きながらお酒飲むのいいね」
「わっかります雰囲気好きなんですよ」
「こら、まだ十九でしょ飲んじゃだめなんだよー、未成年は」
「バレなきゃみんな高校くらいから飲みますよ、菜摘先輩だって飲んでたでしょ?」
「私はちゃんと成人してからだよ飲んだのは」
「えーすご優等生ですね」
「でしょー優弥くんも見習わないとだよ」
「見習わないとってもう飲んじゃってますからね」
「ふふ、確かに」
街灯に照らされながら歩く僕たちの後ろ姿はどんな風に映っているんだろうか。
まだセミの頑張っている鳴き声や名前のわからない虫たちのここにいるよと訴えんばかりの鳴き声が響き渡る公園に着くと、見渡す限り人一人いなく寂しそうにひんやりと冷えてそうなベンチに僕たちは腰を下ろした。
「檸檬堂のレモンサワーと氷結どっちがいいですか?」
「私、檸檬堂がいいかも」
「じゃあ僕氷結の方で、檸檬堂の方が甘いですよね」
「え!そうそう。初めて飲んだ時は氷結が聞いたことあったからそっち飲んでたんだけど今はこっちの方が好き」
公園に向かうときから着くまでの間でも菜摘先輩は意外と真面目でお酒は甘い方が好きでと覚えたいことが沢山ある。そんなこといちいち覚えなくてもいいのかもしれないが、まだ付き合ってもない僕はこんな小さなことでも覚えていたいと思ってしまう。ベンチに腰を下ろしてからも何気ない会話から割と長く話し込んで気づけば終電近い時間になっていた。




