29話
紫雨菜摘
未練。思い出しただけでも嫌になる。どうしてあの頃の私はあれほどまで残酷な選択をし、初めて自分より大切だと思った人にあれほどまで非情な言葉しかかけれなかったのだろう。今となっては連絡も取れない彼の事をふと、思い出す。私はこれからもずっとこの罪悪感という十字架を背負い生きていくだろう。
「菜摘は大人になったらあの子と結婚するんだよ」小さい時から言われていた聞き慣れた言葉。
私が生まれたのは北陸地方の小さな町。
父親はその町で小さな工場を経営していて、母は専業主婦。そんな家庭で私は生まれた。 私が生まれる前に父の経営している会社がライバル会社のせいで倒産の危機に陥っている時、父の大学時代の先輩が会社を助けてくれたそうだ。そんな先輩の一人息子が私と歳が近いという理由で将来結婚させようと生まれる前から勝手に決まっていたらしい。
物心ついた時にこの話を母から聞き、随分できすぎた話だなと思った。私の感情なんてとっくに聞き入れてもらえる筈がないくらい話は進んでたし、そもそも生まれる前から決まっていたなら私にはどうすることもできないことだよなと諦めていた。
怖いもので小さい頃から結婚する人がいるよと言われ育つと、それが当たり前のように感じ出す。それが他の人には無いことで周りと自分の感覚が違うと感じてきたのは小学生の高学年頃だった。小学生でも早い子は好きな人ができただとか、あの子と付き合っただとか恋愛的な話も随分と盛り上がりを見せていた。
私は依然と焦りも生まれないし、そもそも好きってなんだろう?の段階だったので特に気にしてはいなかった。
中学に上がると周りの子たちは彼氏と海に行ったんだとか花火大会一緒に行ったんだとか夏休み明け早々に盛り上がっていて、この時だったと思う。
ああ、取り残されてるな私。
この瞬間にふと、そう思った。別に誰かに嫌がらせをされたわけじゃないし、そういう話をしていない子たちだって確かにいた。でも、私が関わっているグループの子達はみんな彼氏がいたし私だけ彼氏がいないこの空間でも平気でそういう話をする人達だったから私はついていけない自分に腹が立った。初めてその日学校から帰り親に相談した。
「私もみんなと一緒で普通の恋愛するのはいけないこと?」 両親は依然とした態度で「え、菜摘は結婚決まってる人いるんだよ、必要ないと思うけど」至極当たり前そうな顔でそう言われ私は早々に諦めてしまった。
中学や高校生とまだ若い時期、グループで話が合わない子はハブられるかいじめに変わるかだ。私は最初によく一緒にいたグループは多分いじめをする方に変わるだろうなと、なんとなくみんなの性格から予想できたので避けてるのがバレないよう緩やかにグループからは離脱していった。その後は他のコミュニティに入る気にもなれず中学の間は孤立しない程度に周りと距離を保ち卒業まで過ごした。




