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煌彩  作者: ヒラ
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27話

「優弥くん、提案なんだけど私が卒業する前に電車で行ける距離でいいからプチ旅行しない?」

「いいね。行こうか」

 いつの間にか菜摘と話す時の僕も肯定から入れるように優しくなっているのに気づいた。これも全部菜摘が与えてくれた温かい心のお陰だと感謝する。

 

 東京から電車で行ける距離で楽しめる場所で真っ先に思い浮かんだのは二人とも神奈川県だった。みなとみらい、横浜中華街、箱根温泉など少し考えただけでもたくさんの観光地が出てきたのは神奈川県しかなかった。

 菜摘も提案した時から横浜あたりを考えていたらしく迷うことなく目的地が決まった。

 

 二年記念日、僕達は横浜駅を目指して電車に乗る。移動中、僕達はイヤホンを片耳ずつ共有し音楽を流した。気づいたら旅行中になんとなくするようになった流れが今ではないとムズムズするようになっているのだから人間の体はつくづく不思議だなと僕は思う。

 他にも目的地を二つずつ決めることだったり、ホテルは必ず飲屋街の近くを探して予約するだったりと、僕達の中で旅行のルーティーンのようなものが確立してきていることに気付き、もうこんなに一緒にいる時間が長かったんだなと不意に実感した。

 横浜駅にはお昼頃に到着した。早速僕達は中華街の方面に足を向け歩き出した。中華街は平日の昼でもイメージ通りの賑やかさだった。僕達は食べ歩きの出来る屋台が連なっている道に行き台湾唐揚げや小籠包をイートインスペースで食べながら屋台を通り過ぎる人達を眺めた。お腹も満たされてきたところで中華街を後にし、みなとみらい方面へ向かった。みなとみらいでは赤レンガ倉庫を見て菜摘が感動していた。

「来てみたかったんだ、ここ」

「来れてよかったね、記念日に来れてよかった。中も入ってみようよ」

 赤レンガ倉庫の中は一階に文化施設があり、二階には雑貨屋や服の店が並んでいた。僕達は二階の店のレパートリーの多さに惹かれ一階は程々にして二階へ向かった。

 菜摘はどうしても行きたいと言っていたアクセサリーが沢山置かれた店に入ると

「せっかくだから高級なやつじゃなくていいからリングをペアルックでつけたい」と言い出した。

「うん、いいね。つけよ」

 菜摘が恥ずかしそうに言うもんだから僕も二つ返事で賛成した。

 指輪は右手の薬指にハマるサイズでなるべくシンプルなものを二人で探した。

 ちょうどいいサイズが見つかり、菜摘がここだけは私が出したいと強く言ってきたので仕方なく払ってもらった。薬指にペアリングをつけて二人で歩くと左指じゃないけどなんとなく夫婦になった気分で嬉しかった。

 店をいくつも周り時刻もいい時間だったので電車に乗りホテル方面へと向かった。

 荷物を部屋に置き早速飲屋街の方へ向かい店を選ぶ。もう三度目の旅行ともなればお互いの好きそうな店は自然と決まる。僕達は惹かれた外観の居酒屋を一軒目に選び飲んだ。お腹も満たされてきたところでBARで飲みなおすことにし、一軒目を出た。二軒目はなかなかいい場所が決まらず裏路地に入ったところで、すごくレトロそうなBARを発見した。

 中に入ると常連さんらしき人が数人と新潟のBARで出会ったマスターを連想させるような優しそうな人がカウンター越しに立っていた。

「いらっしゃい、お二人さんかな」

「はい。カウンターでもいいですか?」

「今は空いてるからね。好きなところに座って大丈夫ですよ」

 話し方まで似ていた。入って驚いたのだが裏路地通りにあるところからのギャップを感じる内装だからかわからないが、店内は薄暗い橙色のような灯りで彩られていてどこか異国の場所に来たような気分だった。

 マスターは手際良くカクテルを作っていてその姿はなんだか惹きつけられる何かがあった。ここの店は味が濃くてすごく美味しかった。今までも二人とも気に入った飲み屋は人が温かくてお酒が美味しいところだったからなんとなく、ここも好きになる店なんだろうなと直感的に思った。予感は的中するのを分かっていたかのようにその日はとても楽しく温かい気持ちになり店を後にした。

「最後行ったBARよかったね」

「旅先で毎回温かい気持ちになれるの今考えたらすっごく奇跡な気がする」

「本当にね、感謝しないとだね」 

 秋の風を肌で感じ冬が近づいていることを実感する。ああ、遠距離かぁぁ吐き出したいため息をグッと飲み込んで僕は隣にいる菜摘を見た。離れたくないな。そっと一滴涙が頬を伝ったが僕は欠伸のせいにした。

 

 今回の旅行は一泊二日の予定だったので僕達は朝早くから既に電車に乗り込んでいた。今日は菜摘の提案でインターシップお疲れ様の意味も込めて箱根温泉に行こうと決めていたので、向かっている途中だ。移動中、窓から見える景色は横浜の都会の雰囲気とはかけ離れた田舎らしい風景が窓越しにあった。

「神奈川もこんなとこあるんだね」

「本当だね、田んぼばっかり」

「なんか違う県に行ってるみたい」

「そうだね、でも、もうすぐ着くんじゃない?」

 菜摘がそう言った時、ちょうど駅内アナウンスは箱根湯本駅まであと二駅と言っていた。

 箱根に着いたら食べ歩きスポットが沢山あり、つまめるものを買って少しお腹に入れたあとバスに乗り温泉地まで移動した。

 温泉なんて久しぶりに入るなあ、そんなことを考えながら「じゃあ、また後でね」と言い菜摘と反対の暖簾を潜った。温泉に浸かりながら僕は昨日の夜を思い出した。

遠距離が始まる不安や菜摘がいない生活への不安。一度考え出したら今までの楽しかった記憶も断片的にビデオのように頭の中を駆け巡り出し泣きそうになった。僕は気の済むまで湯に浸かったあと不安を流すように身体を洗い温泉を出た。菜摘はまだ上がっていなかったため先にコーヒー牛乳を買い休憩スペースに腰を下ろし彼女を待った。

「ごめーん、お待たせ」

 温泉上がりの菜摘は少し化粧をしていたらしい。菜摘もコーヒー牛乳を買ってきて隣に腰を下ろした。

 久々の温泉は思った以上に息抜きになった。遠距離への不安だとか、インターシップ中の会えてなかった期間とか、それらの悩みが全部洗い流されたような、そんなスッキリした状態になり僕達は東京に戻った。

遠距離前、最後の旅行。「いい思い出で良かったなぁ」僕は心の中で呟いた。

 

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